フィリピンの子ども達が、オリックスの吉田正尚選手に感謝の思いを込めて応援の横断幕を制作。支援を通して絆が育まれています。

◆日本野球が次にすべきこと

 東京五輪では、野球ファンの誰もが侍ジャパンの負けられない闘いに釘付けだったことでしょう。金メダルを獲得した選手たちの笑顔を見て、胸が熱くなった方もたくさんいるのではないでしょうか。カープ勢は森下暢仁選手や栗林良吏選手が大活躍で、広島の皆さんも大いに盛り上がったことと思います。

 しかしながら、野球は次のパリ大会では実施種目から除外されてしまいました。そんな中で金メダルを獲得した日本野球がすべきことは何かと考えれば、国内だけでなくアジア諸国など海外での野球の普及活動ではないでしょうか。これは世界ナンバーワンに輝いた日本野球に課された大切なミッションです。

 とはいえ、ボール一つあればできるサッカーとは違い、野球にはいろんな用具が必要。本格的にやろうと思えばルールも複雑です。特に開発途上国では日常的に運動靴を履く環境すら整っていない地域も多く、そんな中で競技を普及させるのは簡単なことではありません。ここはひとつ視点を変えて、まずは野球を観る習慣から浸透させていくというのはどうでしょうか。

 部活や趣味で野球をやっている皆さんが競技を始めた経緯は様々だと思いますが、まったく観たことがない状態でいきなりバットやグローブを買い揃えたという方はおそらく少ないと思います。きっとテレビや球場、近所の公園などで野球を観て、「やってみたいな」「面白そうだな」と興味を抱いたからこそ始めたのではないでしょうか。

 競技の発展のためには観る習慣、つまり『観戦文化』がとても重要です。野球を観たことがない子供にいきなりグローブとボールを持たせて「投げてごらん」と言っても、何が面白いのかイメージが湧きません。でも、野球選手がものすごく速い球を投げたり、バットでものすごく遠くへボールを飛ばしたりするのを目にしたら、「すごい、自分もやってみたい!」と見よう見まねでやってみる子が出てくるかもしれません。こういった驚きやワクワク感こそ、競技普及のためには大事ではないかと思うのです。

 そこで今回は、私の運営するNPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーション(BLF)でお手伝いしているオリックスの吉田正尚選手による、開発途上国の子ども支援の活動についてご紹介したいと思います。金メダリストでもある日本のプロ野球選手が開発途上国の支援をすることが、結果的に野球という競技の普及につながるという事例です。

 吉田正尚選手は2019年からホームラン1本につき10万円を認定NPO法人『国境なき子どもたち』に寄付し、同団体を通じてフィリピン、バングラデシュ、カンボジアの子どもたちの教育支援を行っています。

 

岡田真理(おかだ・まり)
フリーライターとしてプロ野球選手のインタビューやスポーツコラムを執筆する傍ら、BLF代表として選手参加のチャリティーイベントやひとり親家庭の球児支援を実施。出身県の静岡ではプロ野球選手の県人会を立ち上げ、野球を通じた地域振興を行う。著書に「野球で、人を救おう」(角川書店)。