2020年は堂林翔太“覚醒”のシーズンになったと言っても過言ではない。開幕序盤から安打を量産し、8年ぶりに規定打席に到達するなど、最後までレギュラーとして活躍。期待されながらも結果を残すことができなかった男が、プロ11年目で見事な活躍を見せつけた。

 プロ11年目の覚醒を見せファンを魅了した、堂林翔太のこれまでの軌跡を、当時の本人の言葉とともに辿る。最終回は、復活を印象付けた一年を、どのような思いで戦っていたのか。堂林自身の思いと共に2020年シーズンの活躍振り返っていく。

プロ11年目で見事な復活劇をみせた堂林翔太選手。8年ぶりに規定打席に到達し、キャリアハイの打撃成績を残した。

◆使ってくれた監督、首脳陣に感謝したい

 シーズン序盤は4割前後を推移した打率だが、夏場以降は、下降線をたどった。それでも佐々岡監督は堂林翔太をスタメンで起用し続けた。堂林は2割後半の打率をキープしながら、つかみとったレギュラーの座を必死に守り続けた。

「調子が悪くてもスタメンとして試合に出させていただいていました。ということは、悪いなりにも結果を出さないといけないですし、そういった面ではまだまだ課題は多いと感じました。ですが、そういう課題というのは、試合に出ないと分からないこと。試合に出られる喜びを日々感じながら、良いことも悪いことも含めて、いろんな経験を今シーズンは積ませてもらっています」

 シーズン前半は、打つべき球を一発で仕留めることができていたが、後半戦になると、その確率が次第に低下。結果の出ない日々が続いたが、新井貴浩が“帰る場所”と表現した、調子が悪い時に“戻れる原点”を見つけていた堂林は、以前のように闇雲にもがくことはなかった。

「打撃の調子が思わしくなくても特に大きく形を変えるようなことはしていません。今年のキャンプからやってきた意識をずっと変えないで、1年間通して最後までやってきました」

 8月、9月は打撃成績を落とすも、堂林のバットは、10月から再び上昇気流に。結果的に、一軍デビューを果たした2012年と同じ自己最多タイとなる14本塁打、打点数(58)と打率(.279)は、自己最多を更新する成績を残した。また、2012年以来となる規定打席にも到達した。

「今シーズンに関しては最初からあまり数字に関してこだわりはなかったというのが正直なところです。それよりも、僕を使ってくれた監督、コーチの方々に感謝の気持ちでいっぱいです。試合に出続けることができたからこそ、こういった数字を残せたんだと思います」

◆今シーズンがダメならこの先はないという覚悟

 シーズンの戦いを終えた堂林には忘れられないホームランがある。7月8日のDeNA戦(マツダスタジアム)で放った一撃だ。

「いろいろ印象に残っていますが、あの試合で8回に逆転満塁ホームランを打つことができたシーンが、一番印象に残っています」

 バックスクリーンへと飛び込んだ打球は、カープファンのみならず、堂林自身にとっても大きな一発だった。カープファンが待ち望んだ復活を果たした今シーズンを堂林はこう振り返った。

「『今シーズンがダメだったら先はない』という強い覚悟でシーズンに入りましたし、いつ開幕するかという難しい状況でしたけど、その中で気持ちも変わらず、うまく調整することができたと思います。その心の在り方が、今シーズンの成績につながったんだと思います。まだまだ課題も多いですけど、この先につながる課題が見えてきたシーズンでもありましたし、同時に自分の良さを出すことができたシーズンだったと思います」

 振り返れば2012年、プロ3年目で彗星のごとく一軍デビューするも、そのあとすぐに、出口の見えない長い長いトンネルに突入した。それでも諦めることなく、光を探し求めてガムシャラに前進を続けた堂林。

 そして、11年目でようやく巡ってきたチャンスを死にものぐるいでつかみとり、最後まで離すことはなかった。“覚醒”した実力を見せつけた背番号7は、その力がフロックではないことを、来季も証明してくれるはずだ。