2015年からカープの指揮官を務め、2016年から球団史上初となるリーグ3連覇を成し遂げた緒方孝市氏。本稿では、緒方氏の著書「赤の継承 カープ三連覇の軌跡」の構成を担当した清水浩司氏に、書籍制作を通して見えた“闘将”の横顔を語ってもらう。

 

◆最終回・緒方孝市が明かした数々の真実

 私は緒方孝市さんの書籍『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』の編集を通して、これまで光が当たることのなかった数々の真実を目の当たりにしたが、その中でもサプライズと呼んでいい大きなトピックが2つほど存在した。それはそのまま、この本を支える太い柱になってくれた(書籍の構成上ネタバレになるので、詳細に関しては伏せさせていただければと思う)。

 ひとつめのトピックは本の冒頭で登場する「緒方さんにとって、選手時代、コーチ時代、監督時代を通じてもっとも重要な試合は何か?」という問いに対する答えである。普通であればカープが25年ぶりのセ・リーグ優勝を果たした2016年9月10日、東京ドームでの巨人戦を挙げるのが妥当ではないだろうか。もしくは地元広島の空の下で宙に舞った2018年9月28日、マツダスタジアムでのヤクルト戦を挙げる方もいるかもしれない。いやいや、選手時代ということまで考えれば、デビュー戦、引退試合、選手生命が危ぶまれた大ケガから復帰した試合……など、さまざまな場面が脳裏を巡ることだろう。

 しかし緒方さんの挙げた試合は、意外な試合であった。意外ではあるが、それは確かにカープファンにとっても忘れられない試合であり、後から考えると実に緒方さんらしい選択であった。

 このことに関して緒方さんは、文中でも強い筆致で書かれている。それはほとんど断言、一択と言っていい勢いである。

 この試合に比べたら、25年ぶりの優勝を実現した東京ドームの歓喜も、3連覇を決めたときのマツダスタジアムの一戦も足元にも及ばない。私の原点はそんな華やかな場所には存在しない。私の記憶に深々と刻まれ、私の野球に対する姿勢を大きく塗り変えることになった試合は、この試合しか考えられない。
 この試合は本当に、私の野球人生を象徴する集大成のような試合だった。すべての要素が濃縮して詰まっている、一生忘れられない試合だった。
――『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』107ページ

 あのとき、私たちは確かにドン底を見たのだった。これ以上ないほどの無様な負け様。私たちは自らの無力さを眼前に突き付けられ、涙を流すことしかできなかった。~(略)~
 それが私たちの出発点となった。
 ここからはじめなければいけない。この屈辱から、もう一度立ち上がらなければならない――。
 ~(略)~がなければ、それ以降の私はなかったことだろう。もしかして、それ以降のカープもなかったかもしれない。
 何度も書く。
 私のすべては、ここで生まれ、ここからはじまったのである。
 カープ25年ぶりの優勝、そして3連覇は、この屈辱の中から誕生したのである。
――『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』112ページ

 緒方さんが挙げた試合は一体どの試合だったのか? 緒方さんが「私の野球人生を象徴する集大成のような試合」と言い、さらに「カープ25年ぶりの優勝、そして3連覇は、この屈辱の中から誕生した」と言い切るほどの試合はどの試合なのか? それは私の想像を超えるものであり、「カープ3連覇の原点はそこにあったのか……」というこれまでにない視点を与えてくれるものであった。まずこの事実に対する大きなインパクトが、本書の冒頭を牽引してくれた。