春季キャンプで、永川勝浩一軍投手コーチから指導を受ける栗林良吏投手。

 東京五輪の野球競技。A組1位通過を果たした日本は、8月2日、ノックアウトステージ(ラウンド2)でアメリカと対戦。3点ビハインドを追いつき、タイブレークの延長戦に突入すると、10回裏に甲斐拓也(ソフトバンク)がサヨナラタイムリーを放ち準決勝進出を決めた。

 サヨナラ勝ちを呼び込んだのは、侍ジャパンの守護神に抜擢されたカープ・栗林良吏。10回表、タイブレークにより無死一、二塁の状況から登板。ペナントレース同様、落ち着いた投球で後続を抑え、アメリカに得点を与えなかった。

 なかでも目立ったのは栗林の持ち味であるフォークボール。三振が欲しい場面で空振り三振を奪うなど、落差の大きいフォークが、五輪の舞台でも十分に通用することを改めて証明した。

「フォークが通用しなかったら(代表に)選んでもらった意味がありません。自信を持って、自分を信じて、そして捕手のリードを信じて投げていきたいと思います」

 日本代表に選出された際、そう話していた栗林。今の栗林のフォークを語るうえで欠かせない人物がいる。カープの永川勝浩一軍投手コーチだ。

「フォークの使い方については永川投手コーチにたくさん教えてもらいました。今まで自分は、低め低めの意識で投げてきましたが、漠然と低めに投げるのではなくて、ストライクゾーンの中でもちゃんと落ちていれば、打者は嫌がるものと教えていただき、低めに投げるだけではなく、落として低めにいく意識も持つようになりました」

 永川コーチは、現役時代、鋭く落ちるフォークを武器にプロ1年目から25セーブを記録。守護神として活躍し、プロ17年間で球団最多の165セーブをあげた永川コーチ直伝のフォークと数々のアドバイスが、栗林を日本を代表するクローザーへと成長させた。

「フォークの使い方もですが、永川コーチには、メンタルを整えるという意味で準備の大切さを何度も教えていただきました。クローザーが投げるイニングはほぼ決まっています。登板が回ってくるシチュエーションは分かっているので、最終回から逆算して、ルーティンなどを含めてしっかり準備していこうということをアドバイスいただきました。失点すると、チームの勝ちも先発投手の勝ちも消える可能性がある責任感のあるポジションなので、最低限準備だけはしっかりしようと心に決めています」

 ペナントレースと同等以上の重圧がかかる五輪のマウンド。今後もアメリカ戦のように試合を左右する場面での登板が予想されるが、シーズン同様、登板に向けた準備にぬかりはない。

「与えられたポジションでしっかりと自分の力を発揮して、金メダルに貢献したいと思います」

 栗林が五輪で登板した試合はすべてチームが勝利。ここまで3試合に登板し2勝1セーブをあげ、準決勝進出に大きく貢献している。悲願の金メダルまで最短で残り2試合。負けない守護神の投球が、世界の頂点を目指すうえで重要な鍵を握る。