2016年からの球団初のリーグ3連覇をヘッドコーチとして支えた高信二。今季からは二軍監督として、カープの未来を担う若手育成に取り組んでいる。脈々と受け継がれる『育成のカープ』の伝統を、二軍の現場でどう活かしているのか。今季一軍での飛躍が目立つ小園海斗や林晃汰、玉村昇悟などの育成エピソードと共に紹介する。

若手選手の活躍が目立つ今季のカープ。高信二・二軍監督は、リーグ3連覇をヘッドコーチとして支えた経験を活かし、選手の育成に取り組んでいる。

◆小園に精神的な成長の跡。逆境を打ち破った林

─一軍でポジションをつかみつつある小園海斗選手と林晃汰選手は、開幕は二軍スタートでした。どういった部分が成長したと感じておられますか?

「小園に関しては、1年目から一軍で見ていますが、高卒とは思えないほどの力を持った選手でした。昨年の成績が相当悔しかったのでしょうね。二軍で自らポジションをつかみ、一軍でも存在感を発揮しています。今季、小園が成長したと感じるのは精神的な部分です。生活環境が変わり一層の自覚が芽生えたのかもしれません。そして林ですが、実は昨年の一軍デビュー(10月)よりも前に、一軍に上げようという話があったんです。ただ、当時二軍監督を務めていた水本(勝己)監督(現オリックス一軍ヘッドコーチ)から『待ってほしい』と打診がありました。今は林をとにかく二軍で鍛えて、試合経験を重ねさせたいということだったので、その時の昇格はなくなりました。今振り返ると、その判断は林のためになったのかもしれません。開幕直後は二軍で不振に喘いでいましたが、とにかく練習して自ら逆境を打ち破りました。5月に一軍昇格のチャンスが巡ってくると、そこからあっという間に一軍での居場所をつくっていました。小園にしても林にしても、一時期試合に出るだけではレギュラーとは言えません。満足してほしくないですし、失敗もすると思いますが、とにかく前向きに真摯に野球と向き合っていってほしいと思います」

─8月に右手関節手術を行い離脱してしまいましたが、2人と同世代の羽月隆太郎選手は、開幕直後に外野に挑戦し出場機会を増やしました。これはどういった経緯で実現したのでしょうか?

「一軍首脳陣との話の中で、羽月は足もあるので外野に挑戦させてみようとなりました。もちろん1つのポジションでレギュラーを取れたらいいのでしょうが、複数ポジションを守れたら起用の幅が広がるだけに、選手自身の可能性も広がります。一軍でも捕手登録の中村奨成が外野、坂倉将吾が一塁を守っています。いずれも春季キャンプの時点では描いていなかった構想ではありますが、これからは1人2ポジションの野球の時代がやってくるのではないかと思っています」

─投手では2年目の玉村昇悟投手が一軍の先発ローテに定着しています。

「玉村は制球が良いですよね。外見はニコニコしていてすごく穏やかそうに見えるのですが、度胸が据わっていますし、堂々と投げている印象があります。(二軍の)開幕直後ですかね、玉村が好投した試合がありました。その日の試合後、選手全員の前で『今日は良かったぞ』と褒めると、大きな声で『ありがとうございます』と返ってきました。たくさんの先輩がいる前なので、適度な声で話す若手選手が多いなか、玉村は大きくはっきりとした声で返してきたので『この選手は、他の選手とは違うものがあるな』と感じたのを覚えています。案の定、一軍で活躍する投手になりました」

─4月にはルーキーの小林樹斗投手と行木俊投手が異例の速さで実戦登板を果たしました。この狙いを教えてください。

「春季キャンプからしっかり投げていたので試合を経験させました。それを経て2投手ともに強化指定選手として、体づくりに取り組んでいます。育成するうえで大きな故障をさせないことは一番のテーマです。昨年の玉村も強化指定選手として鍛錬を重ね、今年一軍デビューを飾りました。良い成功例となったので、新人もそれに続いてほしいですね」

◆プロフィール
71 高 信二(こう・しんじ)
1967年4月16日生、福岡県出身。1985年ドラフト2位でカープに入団。3年目から一軍に定着すると、堅守を武器に内野のユーティリティープレーヤー、左の代打として活躍。1998年限りで現役を引退。引退後は一軍コーチ、二軍監督を歴任し、2016年から一軍ヘッドコーチとして、リーグ3連覇を支えた。2021年から二軍監督に就任。