2021年シーズン、25年ぶりVに迎えて優勝争いを演じているオリックス。中嶋聡監督の下、今季は8人の新任コーチが就任するなどフレッシュな顔ぶれでスタートしている。その中で中嶋監督を近くで支えているのが、水本勝己ヘッドコーチだ。

 水本ヘッドコーチは1989年にドラフト外でカープ入団。わずか2年で現役引退し、一軍出場はない。引退後はブルペン捕手としてチームを支えてきた。

 コーチ業のスタートは2007年。シーズン途中にブルペンコーチ補佐に就任してから。その後三軍統括コーチ、二軍バッテリーコーチを経た後、2016年からは二軍監督に抜擢された。二軍監督時代の2017年には26年ぶりのウエスタン・リーグ優勝、初のファーム日本一に導くなど、一軍に好選手を送り込みながらカープのリーグ3連覇に貢献してきた。

 2021年、30年間在籍したカープを退団してオリックスのヘッドコーチに就任。中嶋監督とはカープ二軍監督時代に監督として戦ってきた仲であり同学年だ。

 ここでは、カープで指導者として実績を残し、オリックスの躍進を陰で支える水本コーチがカープ二軍監督時代の2018年に語っていた、指導論を改めて振り返っていく。(広島アスリートマガジン2018年4月号掲載を再編集)

2021年からオリックスのヘッドコーチに就任した水本勝己氏。写真はカープ時代。

◆実績があるからといって手を抜くようなプレーは絶対にしてはいけない

 基本的に二軍の本質とは、一軍に適切な戦力を送り出すことだと思っています。そういう意味では2016、2017年は一軍も連覇しましたし、二軍から送り出した選手たちが活躍してくれたことで、少しはその役目を果たすことができたと言えるかもしれません。

 私が理想としているのは『緒方孝市監督(当時)を困らせたい』という状態なんです。良い選手をどんどん一軍に送り出して、『どの選手を使ったら良いんだ』と、そう思ってもらうということです。逆に言えば一軍から「誰か生きの良い選手はいるか?」と聞かれた時に「誰もいません」という状態にだけはしたくありません。

 昨季(2017年)二軍は球団史上初の日本一を果たすことができました。よく胴上げの瞬間の気持ちを聞かれますが、正直『うれしい』という気持ちよりも、『シーズンがようやく終わった』という気持ちの方が強かったです。

 二軍という場所は基本的に“終わり”がないんです。二軍にいる選手にとっては、シーズン終了後の秋のキャンプこそ大事なんです。一軍の首脳陣にアピールする最大の機会なわけですから、選手たちもシーズンが終わったからといって、そこで気を抜いてほしくありません。

 私の指導哲学はシンプルです。『良いことは良い。悪いことは悪い』です(笑)。若手だろうが、ベテランだろうが、野球選手ということに差はありません。ベテランだからといって、実績があるからといって手を抜くようなプレーは絶対にしてはいけないということです。

 新井貴浩や、黒田博樹という人間が、なぜ選手たちのリスペクトを集めるのか。やはり野球に対する真摯な姿勢を周りの選手たちが見ているということです。人間誰しも弱いですから、ダメと分かっていることでも楽な方にいってしまうものです。そういう時に、きちんと指導者として注意をしていきたいと思っています。それはその選手個人のことを思ってという面もありますが、そうした態度がチーム全体に蔓延してしまうことが怖いからです。

 二軍監督は選手とのコミュニケーションはもちろん、コーチともしっかりとコミュニケーションをとっていかなければいけません。二軍のことについては、私が最終的に判断を下す訳ですからそこに大きな責任感も感じます。悩むこともありますが、そういうときに考えるのはあえてシンプルに『選手たちをうまくする』ための最適な方法は何かということを考えます。結局突き詰めれば、そこが1番です。コーチの方々にもその芯を曲げてほしくないし、そこがしっかりしているからこそ、良い状況がつくりだせているのかもしれません。

 私の恩師である三村敏之元監督から、一軍監督の大変さ、苦労について話を聞いたことがあります。そのプレッシャーは想像できないぐらい壮絶なものだそうです。緒方監督もおそらくたくさんのしんどいことがあるでしょう。それを理解することは難しいかもしれませんが、なんとか助けられることがあれば助けたいと思います。

 自分にとって三村さんとの出会いは、大きなきっかけでした。三村さん以外にも北別府学さんや、大野豊さんなどそういう方々に出会ったことでさまざまな経験をすることができました。本当に今まで出会ってきた方々のおかげでここまでくることができました。そういう意味では今の選手たちにも、たくさんの人と出会って、いろいろな経験をしてほしいと思っています。