10月11日に迫ったドラフト会議。プロ野球選手を目指す全てのプレイヤーにとっては“運命の日”だが、同時に各球団にとっても将来を左右する大事な一日になる。

 しかし、ドラフトを本当の意味で“評価”できるのは早くても数年後。指名した選手がプロでどんな成長を見せ、チームの戦力になるかは誰にも分からない。

 ただ、中には“即戦力”の選手獲得に成功し、ドラフト指名がチームに“即効性”をもたらすケースも存在する。カープにとっては昨年、2020年ドラフトがまさにそれだった。

2020年のドラフトでは、栗林良吏投手をはじめ、全7選手が入団した。

◆大成功を生んだ指名戦略

 セ・リーグ3連覇を達成しながら翌年から2年連続Bクラスに終わり、苦しい戦いを強いられていた2020年のカープは、そのドラフト戦略も“即戦力重視”へとシフトすることになった。

 この年のドラフトでは1位で栗林良吏(トヨタ自動車)、2位で森浦大輔(天理大)、3位で大道温貴(八戸学院大)と、大学・社会人の“即戦力投手”を相次いで上位指名。

 さらに言うと、4位の小林樹斗(智弁和歌山)、5位の行木俊(徳島インディゴソックス)と、1~5位までを投手が占めた。年齢や投打のバランスを考えると、かなり偏った指名とも言える。

 しかし、ドラフトとは本来チームに不足している、もしくは将来的に不足するであろうポジションを補うために存在する。

 その意味では2015年ドラフト5位の西川龍馬が一軍に定着し、菊池涼介が二塁手としてシーズン無失策の大記録を樹立、鈴木誠也が不動の4番に君臨し、4年目の坂倉将吾がブレイクの兆しを見せていた野手陣よりも、チーム防御率4.06(セ・リーグ5位)に終わった投手陣の補填を優先させたのは理にかなっているといえる。

 そしてこの指名戦略は翌年、「大成功」と言っていい結果を生むことになる。

 1位の栗林は開幕からチームのクローザーを任され、10月6日時点で45試合登板、29セーブ、防御率0.41という圧巻の数字を残している。東京五輪でも侍ジャパンのクローザーを務めるなど、今やカープの守護神を飛び越え、“日本の守護神”にまで上り詰めた。

 2位の森浦も左のリリーバーとしてチーム2位の47試合に登板し、15ホールドを記録。3位の大道は開幕からブルペンの一角を担い、6月に先発に配置転換。8月22日に一軍登録を抹消されたが、1年目からフル回転でチームに大きく貢献。

 チーム自体はBクラスに沈んでいるものの、“即戦力”と期待された上位3投手がそろって一軍の戦力として機能し、来季以降へ向けて大きな手応えを掴んでいる。

 また、ここで注目したいのが栗林良吏を「単独1位指名」で獲得できた点だろう。

 2020年ドラフトでは佐藤輝明(近畿大→阪神)、早川隆久(早稲田大→楽天)にそれぞれ4球団が競合したが、実は栗林も「社会人ナンバーワン右腕」として1位指名が確実視されていた。当然、競合の可能性も十分あったが、ふたを開けてみればカープの単独指名。結果として「抽選なし」で翌年の守護神を獲得したことになる。

 チーム事情を考えれば、左の先発候補でもある早川の指名に踏み切る可能性もあったはずだ。しかし、競合による抽選が確実視される早川に入札した場合は当然ながら抽選を外すリスクもあった。

 競合を恐れて“無難”な選手を1位で指名することは、時に“弱腰”と批判を浴びるが、昨年のカープの場合は違う。“即戦力の社会人ナンバーワン右腕”を他球団の指名動向を読み切った上で、単独で指名することに成功したのだ。

 カープにとっては前年の森下暢仁に続き、2年連続での“即戦力一本釣り”。

 抽選のリスクを避けながらもハイレベルな選手を指名し、結果へとつなげる――。

 2020年ドラフトは、そんなカープの“ドラフト巧者ぶり”が発揮された年だったと言えるだろう。