フィリピンの子ども達が、オリックスの吉田正尚選手に感謝の思いを込めて応援の横断幕を制作。支援を通して絆が育まれています。

◆グラウンドの外の野球振興

 今回は、私の運営するNPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーション(BLF)でお手伝いしているオリックスの吉田正尚選手による開発途上国の子ども支援の活動についてご紹介したいと思います。金メダリストでもある日本のプロ野球選手が開発途上国の支援をすることが、結果的に野球という競技の普及につながるという事例です。

 吉田正尚選手は2019年からホームラン1本につき10万円を認定NPO法人『国境なき子どもたち』に寄付し、同団体を通じてフィリピン、バングラデシュ、カンボジアの子どもたちの教育支援を行っています。

 これらの国は、貧困によるストリートチルドレンや児童労働などの問題を抱えています。子供たちがきちんと教育を受けられないことで次世代にも貧困が続いてしまう。この“負の連鎖”を断ち切るために必要なのが、吉田選手が行っている教育の支援です。

 国境なき子どもたちでは、カンボジアとフィリピンで『若者の家』という自立支援施設を運営していますが、そこでは団体スタッフの方が吉田選手のホームランの映像を見せたり、そのホームランが支援になることを伝えてくれたりしています。子どもたちからはお礼や応援のメッセージが年に数回届きますが、それを見た吉田選手はいつも「試合へのモチベーションになります」と言っています。距離も遠く、コロナ禍もあって直接的な交流を図ることは難しいですが、こうして支援を通じて日本のプロ野球選手と開発途上国の子供たちに絆が生まれているのです。

 野球のことをよく知らない支援先の子供たちに、野球という最高にエキサイティングな競技の存在を知ってもらうこと。それによって「自分もボールを打ってみたい」と思う子や「いつか日本で試合を観てみたい」と夢見る子が出てくるかもしれません。その一つ一つの積み重ねこそが、将来的な野球の普及につながると私は信じています。

 また、五輪の金メダリストである日本のプロ野球選手が貧困に苦しむ子供たちを支援することによって、彼らが「野球のスーパースターが手を差し伸べてくれた」と感じてくれるのも大事なこと。一人でも多くの人が野球に対して前向きなイメージを抱き、野球を愛してくれるようになってくれたら、それこそが競技の発展につながります。

 吉田選手の活動の一番の目的は、開発途上国の子供たちが抱えている負の連鎖をなくすことです。ただ、その先には野球という競技の発展も必ず待っています。

 野球振興は、野球を教えることが全てではありません。だからこそ、特に今回金メダルに輝いた選手には積極的に海外の支援に目を向けてほしいですし、普段から野球を愛してやまないみなさんも『野球世界一の国の野球ファン』としてこのミッションを共に遂行していただけたらうれしいです。

 

岡田真理(おかだ・まり)
フリーライターとしてプロ野球選手のインタビューやスポーツコラムを執筆する傍ら、BLF代表として選手参加のチャリティーイベントやひとり親家庭の球児支援を実施。出身県の静岡ではプロ野球選手の県人会を立ち上げ、野球を通じた地域振興を行う。著書に「野球で、人を救おう」(角川書店)。