今年も開催されたドラフト会議。プロ野球選手を目指す全てのプレイヤーにとっては“運命の日”だが、同時に各球団にとっても将来を左右する大事な一日になる。

 しかし、ドラフトを本当の意味で“評価”できるのは早くても数年後。指名した選手がプロでどんな成長を見せ、チームの戦力になるかは誰にも分からない。ここでは過去のドラフトから、カープの“運命”を決定づけた“一日”を振り返る。

2019年のドラフトでは、森下暢仁投手をはじめ、全9選手が入団した。

◆即戦力右腕の一本釣りに成功した2019年ドラフト

 前年までのリーグ3連覇から一転、セ・リーグ4位に沈んだカープ。この年のドラフトで話題をさらったのは佐々木朗希(大船渡高)、奥川恭伸(星稜高)、西純矢(創志学園高)、及川雅貴(横浜高)の“高校ビッグ4”だった。

 特に高校生史上最速となる163キロを記録した佐々木と、夏の甲子園で準優勝投手となった奥川の評価は高く、ドラフト前から複数球団による1位競合が確実視された。

 そんな中、カープはドラフト前日の10月16日に、大学ナンバーワン右腕・森下暢仁(明治大)の1位指名を公表。注目を集めた高校生投手の指名を“回避”する選択をとった。  

 そして翌17日に行われたドラフト会議では佐々木に4球団、奥川に3球団、さらには石川昂弥(東邦)に3球団と、事前の予想通り高校生に指名が集中。  

 カープは公表通りに森下を1位で指名したが競合球団は現れず、いわゆる〝一本釣り〟に成功する。  

 ドラフトでは “目玉選手”を抽選の末に獲得した球団を“成功”と呼ぶことが多いが、実情は少し違う。  

 抽選は純然たる“運”に左右されるだけに、外したときのリスクも大きい。だからこそ、各球団はドラフト前に他球団の指名動向をチェックし、獲得したい選手と、“競合が予想される球団数”を天秤にかける。  

 その上で、競合リスクを承知で指名に踏み切るのか、確実に獲得できる選手を指名するのかを選択する。  

 2021年時点で、佐々木と奥川はすでに一軍の先発投手として活躍。ドラフト時の評価が間違いでなかったことを証明している。その意味で、競合覚悟で彼らの指名に踏み切った各球団の選択は決して間違いではなかった。    

 しかし、である。森下の評価は高校ビッグ4と比較しても遜色なく、ドラフト前には「1位競合」も予想されていた。そんな逸材の単独指名に成功し、1年目から新人王を獲得。2年目の今季は東京五輪代表にも選出されるなど、今や球界を代表する投手にまで成長した。  その意味で、2019年ドラフトの本当の“勝者”はカープではないだろうか。  

 また、この年のドラフトでは森下以外、2位以下の選手も、早い時期から頭角を現している。2位の宇草孔基(法政大)は10月に入ってからスタメン起用も増え、打撃も好調。5位の石原貴規(天理大)は坂倉将吾、會澤翼の正捕手争いに食い込む勢いを見せる。    

 さらに、6位入団の玉村昇悟(丹生高)は高卒2年目ながら今季一軍デビュー。6月にプロ初勝利を飾ると、その後もコンスタントに先発機会を得ている。高校時代の知名度は同期のビッグ4に劣るが、来季以降のさらなる飛躍が期待される。  

 単独指名で即戦力のエース候補を獲得し、野手、捕手、高卒投手が2年目までに順調に成長。まだドラフトから2年しか経過していないが、選手の成長ぶりやポジションのバランスを見ても、2019年ドラフトがカープの現在に大きく貢献しているのは間違いない。  

 「目玉選手」に飛びつくだけがドラフトではない。時にはチームの状況を鑑みて、必要な選手を、なるべく低リスクで獲得する――。  

 この年のカープは、そんな“ドラフトの妙”を我々に見せてくれた。