カープの鈴木誠也(27)がポスティングシステムでのメジャー挑戦を表明した。カープの主軸として6年連続打率3割、25本以上を達成し、侍ジャパンの4番として東京五輪では金メダル獲得にも貢献。日本を代表するスラッガーを巡り、メジャー複数球団による争奪戦が予想される。

プロ1年目、鈴木は9月に一軍昇格、初ヒット、初打点を記録した。

 ここでは、日本を代表する打者へ成長するまでの鈴木のプロ9年間の軌跡を辿る。今回は、プロ1年目のシーズンオフに行ったインタビューから。14年ぶりの高卒野手での一軍昇格、初ヒット、初打点、初スタメンを記録した鈴木が、初のプロ生活で感じたことを振り返っていく。

◆自分が考えているよりもすごい世界だった

─ルーキーイヤーを振り返ってどんな1年でしたか?

「1年目から絶対に『一軍で試合に出る』という目標を立てていました。壁に2、3回ぶつかって『もういいかな』って考えになったこともあったんですけど、それをもう一度考え直して『目標があるんだ』、『ここで諦めちゃダメだ』って思ってやってきました。その結果、最後の舞台で1本だけですけど、ヒットも出ました。1年目で一軍に上がれたことは良い経験だったんですけど、いざ一軍に上がってみたらプロの厳しさを知って、悔しい部分も感じた1年でした。来季は良いと思えることが一つでも多くなるように練習をしていけば、結果は必ずついてくるかなと思っています」

─どんな壁にぶつかったのでしょうか?

「今まで勉強もほとんどせず、ただ野球にだけ打ち込んできたので、野球だけはしっかりやらないといけないという思いでやってきました。でも、プロに入ってみて自分が考えているよりもすごい世界だったというか、高校生のときはまだ未熟で『プロに入ってもどうせ打てるんだろうな』っていう気持ちでいたんです。それが3月にシーズン入って『早く一軍に上がらなきゃ』って焦ってもいたし、本物のプロ野球選手が本気を出して、二軍といえどもすごい選手たちが多かったので、それに対して自分はなめていたというか……。それで最初の壁にぶつかって。打てないし結果も出ないし、考えてはイライラしてという悪循環だったんです」

─どのようにその壁を乗り越えていったのでしょうか?

「『どうしたら乗り切れるんだろう?』ってとにかく考えました。そしたら、練習しかないんだろうなって。あとは慣れかなと。それから、イライラを抑えるようにして、我慢してそういう気持ちを出さないようにしました。打てないことについては、そうやって自分の中で考えながらやってきました。試合に出て、全部の打席でヒットが打てないと悔しいんですけど、10回中3回打てれば良いバッターっていうのを周りから聞いたりしていたので、プロはそれくらい難しい世界なんだなって思うように考えたら、少しは楽になりました」

─壁を乗り越えたことなども踏まえて、2013年に得たものは多かったのではないでしょうか。

「やっぱり一軍と二軍では球場の雰囲気や応援が全然違うし、プレッシャーの中でプレーするということを1年目から味わえたり、ヒットを打てたり、前田(智徳)さんの引退試合とかクライマックス・シリーズ(以下CS)を決める試合とか普通は味わえない貴重な場面でスタメンで使って貰えたのは収穫でした」

─終盤戦に一軍でスタメンで起用されたのは、鈴木選手に対する期待値の高さを表していると思います。

「まだ完全なレギュラーではないし、監督も『思い切ってやれよ』っていう感じで使ってくれたので、プレッシャーというよりは思い切ってやろう、チームに勢いをつけられたらいいなと思って試合に出ました。でもそこで上手いこと結果も出なくて、また『どうして一軍では結果が出ないんだよ』って落ち込みました。結局、自分で勝手に打てなくしていただけだったんですけどね」

◆打ちたい、打ちたい、そればかりになっていた

─必要以上にいろいろ考え込んでしまったり、結果を求め過ぎたことが要因ですか?

「二軍のときは『打てる、打てる』と思って打席に入っていたんですけど、一軍のときはどうしても『打ちたい』、『結果を出したい』っていうことばかりが頭にあって、全部がバラバラな状態になってしまいました」

─具体的に打撃にどのような影響を与えたのでしょうか?

「自分の中での余裕が全然違いました。『打てる、打てる』と思っていれば、力みもないし、どんな投手でも打てるような気持ちだったんです。でも、一軍だと『打ちたい、打ちたい、打ちたい』ってそればかりになってしまって、自分で勝手に力んでバットが出なかったり、甘い球も振れなかったり……」

─『打てる』と『打ちたい』ではそこまで大きな差があるものなんですね。

「今考えたらすごく悔しいです。なんで自分のスイングができなかったのかなって。アドレナリンとか出て一軍の雰囲気とかで打てる気がするんですけど、またそれが余計な力みにつながっていたんですよね。1打席っていう少ないチャンスで結果を出さないといけないとなると、どうしても『打ちたい、打ちたい、打ちたい』っていう考えになってしまう。初ヒットを打ったときは、とにかくきた球を思いっ切り振ろうっていう気持ちでいたら打てたのに、1本出たことで今度は『もう1本、もう1本』って求めてしまって、結局それがいけなかったのかなって。余裕がなかったです」

─結果を求めて焦っていたのでしょうか?

「多分それは、自分に自信がないからで、余計な力が入っていたんです。もっと練習して自分の打撃に自信がついてくれば『打ちたい、打ちたい』って思わなくなるのかなと思いました。だから悔しい思いは、その試合の中ではなく、試合が終わってから練習して発散していました。自分に負けたくないし、その日ダメだったことがずっと続かないようにするには練習しかなくて。今は『何がダメだったんだろう……。あ! ここがダメだったんだ』っていうのが分かってきたし、それは良かったことかなと思いますね」
(後編に続く)