カープの4番……そして、ジャパンの4番。想像を絶する重圧と闘いながら、それでも鈴木誠也は『現状維持』ではなく『進化』することを選択した。迎えた2021年、『進化』はひとつの完成形を見せ、球史に残る偉業を達成した。

シーズンオフから新打法に取り組むなど、さらなる進化に向けて鍛錬を惜しまず取り組んだ鈴木誠也。

◆シーズンオフから新打法に取り組み『進化』を目指す

 2021年は、“鈴木誠也”が〝鈴木誠也〟であることを証明した一年だった――。

 プロ4年目の2016年、流行語にもなった『神ってる』打撃で大ブレイク。25年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。22歳の『若手のホープ』はその後、カープ不動の4番に君臨し、気付けば『ジャパンの4番』にまで上り詰めた。

 周囲の目はいつしか『打って当たり前』の域になり、自らもその期待に応え続けた。背番号『1』を受け継いで挑んだ2019年には自身初となる首位打者と最高出塁率のタイトルを獲得。コンスタントに数字を残し『球界屈指の強打者』の座を確固たるものとした。

 しかし、迎えた2021年、鈴木誠也はある決断を下す。

 それが『新打法』への挑戦だ。それまでよりボールを長く見るために軸足に重心を残し、投球の軌道にバットを合わせていく。昨季終了時点で史上4人しか達成していない『5年連続打率3割・25本塁打』を記録していたにもかかわらず、現状維持ではなく『進化』することを選択したのだ。

 もちろん、そこにはリスクも伴う。プロとして培ってきた自らの技術とスタイルを変化させることは、必ずしも好結果に結びつくことを保証するものではない。

 事実、キャンプ中からオープン戦、さらにはシーズンが始まっても、試行錯誤は続いた。今季の初本塁打は開幕12試合目のヤクルト戦。鈴木誠也にしてはスロースタートだったと言える。とはいえ、この試合で2本塁打を放ち、翌日も第1打席で本塁打を放つなど、量産体制の気配が見えたのも確かだ。ただ、野球の神様はそこまで甘くはなかった。

 5月には新型コロナウイルスに感染する予期せぬアクシデントに見舞われ戦線離脱。その影響もあってか、本塁打のペースもなかなか上がらず、6月終了時点で打率・288、本塁打は10本。決して悪い数字ではないが、『さらなる進化』を目指している鈴木誠也にとっては不本意な成績だったと言っていい。

 しかし、東京五輪が目前に迫った7月。ついにそのバットが火を噴く。シーズン中断までの12試合で5本塁打を記録。打率も一気に3割に乗せ、好調のまま東京五輪本番を迎えることになる。(後編に続く)