鈴木誠也のメジャーリーグ移籍が確実視されている。カープは来季、4番として“打線の軸”を担った選手を欠く形でシーズンを戦わなくてはいけない。もちろん、“鈴木誠也の穴”など簡単に埋まるはずもない。そこで今回は、既存戦力の中から今季のデータを改めて見返し、来季「主軸」を打てる可能性を持つ打者を探ってみたい。

プロ4年目の今季、プロ初安打・初本塁打など、初モノが続いた中村奨成。

◆打率.283に対して出塁率が.377。特筆すべきはこの「出塁率」の高さ

 2021年、カープの打者成績を改めて見返すと、鈴木誠也の“偉大さ”が改めてわかる。6年連続打率3割、25本塁打というNPB史上でも王貞治、落合博満の2人しか達成していない記録に並んだわけだから、当たり前ではあるが……。

 それでも、いわゆる打率、本塁打、打点といった「タイトル」に直結する指標以外を用いて、今季キラリと光るものを示した野手を紹介していこう。

 注目したいのが「OPS」だ。日本でも少しずつ浸透してきたこの指標は「出塁率+長打率」で求められる。打率や本塁打よりも得点との相関関係が高く、メジャーリーグでは打者を評価する指標としてもっともポピュラーなものだ。

 以下が昨季のカープ選手のOPS上位3選手になる(規定打席到達打者のみ)。

鈴木誠也 OPS1.072(出塁率.433、長打率.639)
坂倉将吾 OPS.857(出塁率.390、長打率.467)
菊池涼介 OPS.762(出塁率.333、長打率.429)

 やはり、鈴木誠也が突出している。OPSは一般的に0.9を超えると「一流レベル」、1を超えると「リーグを代表するスーパースターレベル」と言われている。

 坂倉のOPS.857は昨季セ・リーグ7位に該当するため、今後の成長も考えれば来季は打線の「軸」の一人になってくれそうだ。

 問題は、それ以外の選手だ。菊池は来季32歳という年齢と、打者としての「タイプ」からOPSを飛躍的に上げるとは考えにくい。若手でいうと西川龍馬のOPSはチーム4位の.733(出塁率.335、長打率.399)なので、もう少し上積みを期待したいところだ。

 ただ、さらなる打線のレベルアップを図るには、やはり今季出場機会の限られた選手たちの中から「ブレイク」する選手が現れる必要がある。

 今季カープで「規定打席未到達」だった選手のOPSを見ると、以下の選手が優秀な数字を挙げていることがわかる。

中村奨成 OPS.830(出塁率.377、長打率.453)※61打席
宇草孔基 OPS.764(出塁率.331、長打率.432)※158打席

 中村、宇草ともに打席数が少ないので同列には語れないが、この数字は鈴木誠也、坂倉に次ぐチーム3、4位に該当する。

 特に中村のOPS.830は(打席数に目をつむれば)かなり高い。

 今季はプロ初安打、初本塁打をマークするなど飛躍の年となりながら、夏場以降ファーム暮らしが続いたが、少ない打席でもしっかりと結果を残していたことがわかる。

 中村のOPSを引き上げた最大の要因は、その「出塁率」の高さだ。

 打率.283に対して出塁率が.377。これは、安打だけでなくしっかりと四球を選べていたことを意味する。四球数÷打席数で求められる「BB%」では、今季6打席1四球の曽根海成を除くと鈴木誠也に次ぐチーム2位。

 一軍での実績がほとんどない状況でも、冷静にボールを見極められていたことが分かる。ちなみに、長打率.453も鈴木誠也、坂倉に次ぐ数字だ。

 もちろん、コンスタントに試合に出場することになれば、打席数は今季の約10倍に膨れ上がる。そうなったとき、今季と同じ水準の数字をキープすることは非常に難しい。

 ただ、中村はまだ22歳。今後の「伸びしろ」を考えれば、今季残したこの数字は、その未来を期待するだけの「根拠」には十分なる。

小園海斗、林晃汰といった「高卒3年目」の選手がブレイクを果たした今季。年下の選手の活躍に、大きな刺激も受けたはずだ。

 正捕手争いは坂倉、曾澤翼、石原貴規の3人にやや遅れを取ったが、鈴木誠也が抜ければ外野の定位置もひとつ空く。

 中村に宇草、今季は出場機会が限られた彼らがチャンスをモノにすれば、「鈴木誠也の抜けた穴」を埋めることも、不可能ではないかもしれない。