2021年の日本シリーズは連日、熱戦が繰り広げられた。

広島新庄時代の田口麗斗投手。

 6試合中5試合が1点差ゲーム。僅差の展開が多かったことは、ヤクルト、オリックス、両チームの投手力が充実していた証拠だろう。野球におけるピッチャーの力がどれだけ重要か痛感させられた。

 今から8年前、夏の高校野球・広島大会でも2人の投手の力が耳目を集めた。共に背番号「1」を背負い、決勝戦延長引き分け再試合を戦った瀬戸内・山岡泰輔投手と広島新庄・田口麗斗投手。

 当時取材を担当していたディレクターが、「ずっと見ていたいと思わせてくれる試合だった」と語るほど2人の力投は球史に深く刻まれている。この2人が今年の日本シリーズで同じ日にマウンドにあがった。

 東京ドームで行われた第5戦。ヤクルトの田口麗斗投手は2人目の投手として登板。オリックスの山岡泰輔投手は5人目としてマウンドへ。

 山岡投手は右肘のクリーニング手術を経て約5ヵ月ぶりの登板だったが、持ち味の縦スライダーを駆使し勝利投手となった。前出のディレクターは言う。

「本当に感慨深かった。ユニフォームの色が高校時代のチームカラーに変わって見えてしまうのではないかと思うぐらい見入ってしまった」

 同じタイミングで投げ合ったわけではないが、国内最高峰の試合で2人の雄姿を目にし、思いがこみ上げたようだ。

 山岡投手と田口投手がしのぎを削った2013年の夏。広島を制したのは山岡投手を擁する瀬戸内だった。

 一方、広島新庄の田口投手は学校史上初の甲子園出場をめざし、1年生と3年生の時、2度も夏の広島大会決勝の舞台に立ったが一度も甲子園の土を踏むことはできなかった。

 広島新庄が初めて甲子園切符を手にしたのは、2014年春の選抜大会。田口投手の姿を間近で見てきた後輩たちによって学校の歴史は塗り替えられた。

 以降も着実に力をつけた広島新庄。今年はエースで4番を務めた花田侑樹選手と下級生の時から注目されていた左腕・秋山恭平投手など充実した投手陣がチームをけん引。春夏連続で甲子園に出場した。

 10月に行われたプロ野球ドラフト会議では花田選手が投手として巨人から7位で指名を受けた。会見では、「制球力と直球の質にこだわりをもってやってきた。勝てる投手になりたい」と抱負を語っている。

 ヤクルトの田口麗斗投手や日本ハム・堀瑞輝投手など広島新庄出身者は左腕が活躍しているイメージが強い。右投げの花田選手はどのように飛躍していくのか注目が集まる。

 野球はピッチャーの投球からプレーが始まっていく。来年も数多くのドラマが投手の指先を起点にして生まれていくだろう。かけがえのない瞬間を見逃さないように私も多くの球場に足を運びたいと思う。

文=吉弘 翔(広島ホームテレビアナウンサー)

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