プロ11年目のシーズンは、開幕から二軍での調整が続いている。先発投手の日本記録を持つ野村祐輔にとって試練の時期なのは間違いない。かつてはエースと呼ばれた時期もあるなど、実績と経験はチーム随一。栄光を知る男の復活が、チームに必要なときは必ず来るはずだ。幾度も壁を乗り越えてきた男は、胸の内で静かな闘志を燃やしている。(全2回のうち1回目・取材は2022年5月上旬)

2012年以降、カープで積み重ねた勝利数は77。リーグ3連覇にも先発投手として大きく貢献した。先発投手陣の中での実績は随一。そんな野村の姿がチームに与える影響は大きい。

◆後ろばかり見ていても仕方ない。悔しさを晴らす一年にしたい

 今年6月24日に33歳の誕生日を迎える野村は、気がつけば投手陣最年長となった。周りには若い選手が増え、その選手たちと共に一軍昇格を目指していく。

「もちろん年齢の差はありますが、やることは一緒ですから。野球で結果を出す、それに尽きます。なので、自分の良いものをしっかりと出せるように取り組んでいくのはこれまでと変わりません」

 カープだけでなく、広陵高でも明治大でも、エースとしてチームを勝利に導いてきた。25年ぶりの優勝を果たした2016年には16勝をあげて最多勝と最高勝率のタイトルを獲得。球団史上初のリーグ3連覇の3年間で32勝をあげるなど、常勝チームを支えてきた。それだけに、若い選手にはない、豊富な〝経験値〟も大きな武器となる。ただ、長い野球人生で、良い時も悪い時も経験してきているからこそ、輝かしい実績にとらわれることなく今の自分を受け入れている。

「プロ野球は競争と結果の世界ですから、自分が描くビジョンを実現するには勝ち続けるしかありません。実績や経験があると言われるのはありがたいですが、今は自分のやるべきことをやり抜くことしか考えていないです。とにかく、なりふり構わず必死にやるのみ。そして、そういった経験がある選手は僕だけではありません。同学年みんな頑張っているので、自分も負けないようにという思いで毎日を過ごしています」

 プロ入り以降、常にスポットライトを浴びてきた選手だけに、今季ここまで一軍での登板がない現状に葛藤を覚えていても不思議ではない。そして二軍で練習に取り組む日々が続くことで、自分一人が取り残されているような感覚に襲われることもあるかもしれない。しかし、今回の取材で野村の言葉を聞いていると、しっかりと現在地を見据え、泥にまみれる覚悟で11年目のシーズンに向き合っているように感じる。

「後ろばかり見ていても仕方ないですから。それでは何も解決しないので、前を向くように心がけています。昨年は昨年、今年は今年。同じ結果にならないようにやっていくしかありません……とにかく、もうやるしかない。それだけです」

4月8日の二軍戦(阪神戦・マツダスタジアム)で先発マウンドに上がった野村祐輔

 取材の最後、プロ初の0勝に終わった昨年の悔しさが自身に与えた影響について聞くと、しばしの沈黙のあと、言葉を選びながらこんな答えが返ってきた。

「とにかく自分を鼓舞してくれますね。これまでも悔しいシーズンはありましたが、昨年の結果に対しては、例年以上にリベンジの思いが芽生えています。一軍で結果を残すまで悔しい気持ちは消えないですし、なんとか這い上がっていきたいと思っています。あと……やっぱりファンの方が増えると球場の雰囲気が変わりますね。ファンの方は、投げている自分の背中を押してくれる本当にありがたい存在です。良い投球を見せることができるよう頑張りたいです」

 余談だが、野村は昨年までマツダスタジアムで流れる自身の登場曲にMr.Childrenの『皮膚呼吸』を使っていた。思い通りにいかない現実に葛藤しながらも前を見据える気持ちの在り方を表現した歌詞は、現在の野村の姿と似ているようにも映る。

 昨季の悔しさを発奮材料にして、もう一度、赤一色に染まった球場で躍動することができるか。『皮膚呼吸』をBGMにマツダスタジアムのマウンドに上がる野村の姿、背番号19の逆襲を楽しみに待ちたい。

◆野村祐輔(のむら ゆうすけ)
1989年6月24日(32歳)/岡山県出身/177cm・86kg
右投右打/投手/広陵高-明治大-広島(2011年ドラフト1位)