2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 スタメンが固定できず、毎試合のようにオーダーを考えなければいけない。そういった状況で浮上するのが、選手のユーティリティー性の問題である。確固たるレギュラーがいないチームでは、ユーティリティーな資質を持ったプレイヤーが非常に重宝されるようになってくる。

 たとえば2014年、堂林(翔太)はライトを守ることもあったが、彼は複数ポジションが守れれば一軍のベンチに残れるチャンスが広がる。内野が全部守れて、なおかつ打撃の調子が上向いている選手がいればベンチ入りの可能性はぐっと膨らむのだ。

 普段僕らがもっとも頭を悩ませるのは、ベンチ入り28人の顔ぶれをどうするかということである。まず野球はピッチャーが重要視されがちなだけに、ピッチャーの枚数を削ることは難しい。ピッチャーが多く控えていれば早めの継投で勝負することができる。だから28人中12人はピッチャーで占めたい。

 となると野手は残りの16枠を争うことになる。そんな状況で1人で何役もできるユーティリティープレーヤーがいれば、非常に効率よく選手を使うことができる。それはメジャーリーグを眺めていると一目瞭然の傾向である。海の向こうではすでにレギュラー以外の野手は複数ポジションを守れる技術がないと、ベンチに食い込めない状況になっている。カープにおいてもこの年あたりからそれが明確になってきた。

 具体的に言うと、走攻守の2つ以上が兼備されたプレーヤーが必要とされている。いくら何かに秀でていようと、特技がひとつだけというのはちょっときつい。たとえば赤松は代走で出た後も、そのまま守備に就くことができる。前田は代打としてはこれ以上ない存在だが、彼がヒットを打った場合、必ず代走が必要になる。彼を使うためには代走もセットで用意しないといけないわけで、つまり一気に2枚を要する―こんな贅沢な使い方はなかなかできるものではない。