カープを実況し続けて20年。広島アスリートマガジンでも『赤ヘル注目の男たち』を連載中の坂上俊次氏(中国放送アナウンサー)による完全書き下ろしコラムを掲載! 長年カープを取材してきた坂上氏が、カープの育成方法、そして脈々と受け継がれるカープ野球の真髄を解き明かします。連載3回目の今回は、現在一軍バッテリーコーチとして捕手陣の指導にあたる倉義和コーチの育成法に迫ります。

1998年から19年間カープでプレーした倉義和コーチ。今季から一軍バッテリーコーチに就任した。

“基本”を大事にしたプロ野球人生

 ようやくの球音だ。紅白戦、練習試合、そしてプロ野球の開幕である。自宅で過ごす時間や制限のある分離練習を経て、選手たちは実戦の舞台に戻ってきた。
 
「やはり投手の球を捕らないと始まりません。マシンの球を捕球するなど、選手はしっかり取り組んできましたが、それでは応用編ができません。投手の投げる球は一定ではありませんから、実戦の中で生きた球を受けることは、キャッチャーにとって本当に大事です」

 今シーズンから一軍のバッテリコーチになった倉義和は、実戦練習でマスクをかぶる捕手陣の姿を見ながら、束の間の笑顔を見せる。球界を代表する會澤翼がいる。WBC経験のある石原慶幸も健在、坂倉将吾は天才的な打撃のみならず捕手への覚悟で存在感を見せている。

 倉は、41歳まで現役でプレーし、数多のエースの球を受けてきた。彼の野球人生は『上手く見える』から『上手い』への大河を渡るためのチャレンジの繰り返しだった。その試行錯誤が、今、指導者としての土台になっている。

「上手く見える人は、ストレートしか捕れなく、球の軌道が変わると取り損ねることがあります。しかし、本当にうまい人は違います。どの投手の球も、どの球種も同じように捕ることができます。投げ損ないすらもしっかり捕ることができるのです」。

 京都産業大学から即戦力ルーキーの期待で入団したが、実に、学ぶべきことが多かった。学生時代から、古田敦也(元・スワローズ)ら名捕手の形を“見よう見まね”で模索したが、プロ野球の捕手とは、奥の深い世界であった。

「ピッチャーのことを考えて捕る。試合で審判に見せることも考えて捕る。そういうところからコーチの方に教わりました。そこまで気持ちを入れて捕った経験もなく、数を受けてきたわけではないので、とても勉強になりました。投手に伝わるようなボールの捕り方についても考えるようになりました」

 具体的なアドバイスも目からうろこだった。

「もともと座ったときの足の幅が狭く、安定感に欠けていましたが、少し足の幅を広げるようにして変わりました。股関節にはまるような感覚で、少しどっしり感が出てきたような感じがありました。それに目線です。少し下から見上げるような感じです。その方が、投手のリリースもフォームも見やすくなります。おまけに、高めの球にも低めの球にも反応できるようになりました」

 倉は基本を大切にする選手だった。「最初にやらせてもらった基本がなかったら、プロ野球でやっていくことはできなかったと思います。最初に基本を徹底してもらったことが財産です」。この考えは、いささかも揺らがない。