2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 “キクマル”コンビ(菊池涼介、丸佳浩)の台頭が鮮明になるのも、この年のことである。同級生の若い2人が二、三番に座り、チームを牽引していく。

 5月12日の中日戦では2人して満塁弾を放つという離れ業をやってのけたが、僕が彼らに望んでいるのはそんな派手なことではない。僕が期待するのは、ポイントで活躍する選手になってほしいということである。地味ではあるが玄人好みのプレーを決めてくれる選手になってほしいと思っている。

 2人がコンビでブレークしてくれることは非常にうれしい。選手時代、僕が三番、江藤(智)が四番を打った時期があったが、そのとき江藤は本塁打王を獲得した。その江藤が打ったホームランのうちの何本かは僕が打たせたものだという自負がある。

 というのも、僕が走るフリをすることで相手投手の球種を限定したり、コースを読みやすくしたりしていたからだ。自己満足かもしれないが僕は“見えないサポート”に喜びを見出すタイプであり、そういうものが増えれば増えただけ、チームとしての総合力は上がっていくと思っている。

 また“キクマル”がいることで機動力が向上したことも見逃してはならない。彼ら2人だけではないが、この年の盗塁数はリーグ最多の112を記録。それは走る野球がチームに根づいてきた証拠でもある。カープのコーチ陣には僕を含め緒方(孝市)、(石井)琢朗と3人の盗塁王経験者がおり、相手ピッチャーの研究やキャッチャーの配球の分析がかなり綿密に進められてきた。