2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 チームは前半戦を3位で折り返し、オールスターにはマエケン(前田健太)、一岡(竜司)、ミコライオ、キク(菊池涼介)、丸(佳浩)、堂林(翔太)、キラ、エルドレッドの8人と、カープから球団史上最多タイとなる人数が選出された。それは社会現象にまで発展したカープ人気のおかげもあるだろうが、シーズン序盤の戦いぶりが評価されてのことだと僕は思っている。

 そして夏場以降は前半戦とは違う新しい選手が台頭して、さらにチームを盛り上げてくれた。ドラフト3位で入団した社会人野球出身の(田中)広輔は、最初から独自の野球理論を持っていた。僕が彼に最初に伝えたのは「サインが出てないならもっと振っていこう。ここはプロ野球、自分のスイングで思い切り勝負していいんだぞ」ということだった。

 彼は社会人野球を経験している影響からか、チームプレーを優先しすぎる傾向にあった。だからバッターボックスに立ったときも相手投手に球数を投げさせることを優先して、「打て」のサインでも打たなかったりする。つまり自分を出せていなかった。

 そんな彼に僕は「ダメなときはダメと言うから、とにかく好きなようにやっていい」と伝えてリラックスさせることを心がけた。そこからコンスタントに打てるようになった。彼は堅実な守備もあるし、野球についての理解も深い。2015年以降はもっと良い面が出てくるんじゃないかと期待している。

 キャッチャーは會澤(翼)がチャンスを摑んだ。石原慶幸のケガと打撃不調で試合に出るようになり、そこで活躍してくれた。彼はもともとディフェンス面に難があったが、打撃面で貢献したことで自信を持てたところがあったようだ。それに「もうこんなチャンスは二度とない」と心に期するものもあったのだろう。夏場は広輔と會澤を七、八番に並べ、彼らの打撃で勝った試合も何試合かあった。

 伸び悩んでいた選手のブレークという意味では、投手では中﨑(翔太)、戸田(隆矢)が実力を一気に伸ばした。2人とも前半戦、点差が開いた試合での登板にもかかわらず腰が引けた投球をしていたことがあった。僕は試合後に2人を呼んで「あの場面、どういう気持ちで投げたのか?」と問いかけた。戸田は「ストライクからボールになる球を振らせようと思ってました」と答えた。