カープのお家芸でもある“機動力”が今季は機能していない。チーム盗塁数38個は、9月30日時点でセリーグ4位の数字だ。

 機動力復権に向けて真に必要とされるものとは? 2020年のカープ野手陣について、カープOB山崎隆造に語ってもらった。

十分盗塁数を伸ばせるだけの脚力を持っているピレラ選手。積極的に盗塁を仕掛けていく姿勢が求められる。

◆盗塁数が伸びないことよりも、問題なのは・・・

 前回までは主に打撃について語ってきましたが、今回は機動力という観点から今季のカープを見ていきます。

 カープの伝統と言えば“機動力野球”です。もちろん悪い意味で“伝統”に囚われてはいけませんが、今季に関して言えばまだまだ機動力を使う余地はあったように感じます。

 これは打撃の部分でも語りましたが、個人的にはもっとエンドランをしかけたり、次の塁を狙う積極的な攻めの姿勢を見せていくことが重要だと感じています。あくまでも数字だけではなく、その内容が重要ですが、それでもリーグ4位の盗塁数では“足を売りにしたチーム”とは言えません。

  今季のカープの大きな課題とは盗塁数もそうですが、一番は“走塁への意識”が薄まっている点だと考えています。それは足の早い選手だけではなく、チーム全体として持っておかなければいけないものです。逆に言えば選手全体に走る意識が植え付けられていないからこそ、チーム全体の盗塁数が上がってきていないのかもしれません。

 現在のカープを見ても、走れる選手が決していないわけではありません。今は離脱していますが西川、そして菊池などは本来もっと走れるポテンシャルを秘めている選手です。個人的にはピレラも本来どんどん盗塁できる選手だと見ています。ただ、そこにトライができていないということは『自分は走らなくても良い選手なんだ』と思ってしまっている部分もあると思います。野球に対する姿勢自体はものすごく前向きで一生懸命なプレーが目立つだけに、出塁してからももっと思い切ったプレーができるように導いていくことも大切なのではないでしょうか。そういう意味では、ピレラに限った話ではなく選手の走塁意欲を掻き立てる采配というものも求められてくると思います。

 また盗塁のことを語るのであれば、盗塁王にも輝いたことのある田中についても触れないわけにはいきません。本来であれば、先陣を切って足でチームを引っ張ってほしいですが、盗塁数だけを見ると寂しいと言わざるを得ません。ただ、今季の田中について8番を任されることが多かったという事実は考慮しなければいけません。やはり投手が打席に立っていると、アウトになった時のリスクは考えないといけませんし、走りづらい部分は多いにあったでしょう。

 いずれにせよ首脳陣が足を使う攻撃プランを示すことで、選手間に意識が浸透していくものです。逆に言えば走る姿勢、次の塁を狙う姿勢を首脳陣が植え付けていかなければ、選手たちの走塁意識は徐々に薄れていきます。攻撃にバリエーションを生む意味でも、ヒットエンドランなども含めもっと足を使った攻撃が求められるのではないでしょうか。
(vol.5に続く)