今季は故障離脱したものの先発陣の大黒柱として期待される大瀬良大地、そして今季プロ初の規定投球回を達成した九里亜蓮。今のカープに欠かせない先発投手2人を獲得したのが2013年のプロ野球ドラフト会議。この年のドラフトでカープが3位指名したのが、今季から選手会長を務める田中広輔だ。

プロ1年目の2014年、インタビューに応じる田中広輔選手

 東海大相模高、東海大、JR東日本。野球界のエリートといわれる道を歩んできた田中だが、プロの世界に足を踏み入れるまでは少々時間がかかった。

 東海大相模高の頃からスカウトに注目され、田中自身も高校卒業後にプロ入りの希望を持っていたが、高校の監督と母親から「大学だけは出ておいたほうがいい」と説得され、プロ志望届を出さず大学進学を選択。

「それまで高校を卒業して、プロ野球選手になるっていうのを自分の中で思い描いていて、その通りに進んでいたので、最初は自分の中で納得できない部分とか、受け入れられない部分とかはありました。今までプロに入りたいっていう思いで本気でやってきていたのに『大学にきちゃったよ』みたいな。誤解を恐れずに言えばそんな感じでした」

 ただ、東海大はプロ野球選手を数多く輩出している名門。大学卒業後に、プロの世界に入れる可能性は十分あった。しかし、プロ入りの意識が強すぎたのか、大学4年間は思うような成績を残すことができなかった。

「結果ばかり追い求めるようになって全然ダメでしたね。成績が良かったのは、大学3年の秋と4年の秋だけ。実は、大学の監督と約束をしていたんです。4年の春の段階で、すでに社会人のチームから声がかかっていたので、4年の春に結果が出なかったら社会人のチームに進むという約束だったんです。それで進んだのがJR東日本硬式野球部でした」

 JR東日本では、1年目から都市対抗野球大会で若獅子賞を獲得するなど『社会人野手ナンバーワン』と呼ばれるまで成長し注目を集めた。そして社会人2年目に迎えた2013年のプロ野球ドラフト会議。カープからドラフト3位指名を受け、中学校のときからの夢だったプロ野球の世界に飛び込むことになった。

「当日はドラフトにかかる可能性のあるチームメイトと一緒に、パソコンで速報を見ていました。テレビで見たかったのですが、会社のテレビはCS放送が映らなかったんです(笑)。指名された瞬間は自分が予想していたところと違ったのでビックリしたんですけど、やっぱりうれしかったですね」

 カープ入団後の田中は、即戦力としてプロ1年目から期待通りの活躍。ショートのレギュラーを勝ち取ると、3年目の2016年から3年連続全試合フルイニング出場を達成するなどチームの3連覇に大きく貢献。ケガの影響もあり、2019年に記録は途絶えてしまったが、連続フルイニング出場635試合は歴代6位の記録だ。

 高校3年でプロ志望届を提出できず、そこから6年。田中にとっては少し遠回りになったかもしれない。しかしプロ入り後の活躍は、大学、社会人で過ごした時間が決して無駄ではなかったことを証明していると言えるだろう。