カープ一筋23年の佐々岡真司氏を新監督に迎え挑んだ球団創立70周年の記念シーズン。結果は52勝56敗12分けで5位。2年連続のBクラスで2020年の戦いを終えた。ここでは、数々のドラマが繰り広げられた2020年ペナントレースの戦いを振り返っていく。

 今回は、8月28日の阪神戦(マツダスタジアム)。ユーティリティープレーヤー・上本崇司のサヨナラ安打で勝利した試合をお送りする。

8月28日の阪神戦。同点の9回、1死一、二塁から上本崇司選手がサヨナラタイムリー。チームは今季初のサヨナラ勝利を決めた。

◆守備での悔しさが生んだプロ入り初のサヨナラ安打

 守備固めや代走の切り札として、チームに欠かせない存在である上本崇司が、今季は打撃でも存在感を示した。

 阪神を迎えての8月最後のマツダスタジアムでの3連戦。先発は、この試合まで阪神に3戦3勝のドラ1右腕・森下暢仁。相性の良さそのままに、序盤3イニングを無安打投球。4回には3者連続三振を奪った。森下は7回123球を投げて2失点。菊池涼介と坂倉将吾のホームランで奪ったリードを守り、リリーフ陣につないだ。

 しかし、9回、守護神フランスアが無死から連打で一、三塁のピンチを招くと、梅野隆太郎の内野ゴロの間に同点に追いつかれた。

 そうして迎えた9回裏、ドラマが待っていた。先頭の松山竜平が安打で出塁すると、坂倉も内野安打でつなぎ1死一、二塁。ここで打席に入ったのは8番でスタメン出場していた上本。阪神4番手の岩崎優の3球目をとらえると、打球は前進守備のセンターの頭上を越すサヨナラタイムリー。同点に追いつかれ沈んでいた球場の空気を、ムードメーカーの一振りが歓喜に変えた。

「9回表の守備で暴投をして、相手に勝ち越し機を与えるミスをしていたので、『とにかく少しでも取り返したい』という気持ちだけでしたし、『ここしかない』という思いで打席に立っていました」

 守備のミスを取り返す劇的V打は、プロ初のサヨナラタイムリー。勝利直後は歓喜の輪が広がり、上本は男泣きした。

「今年で大卒8年目で年齢も30歳。大袈裟な言い方かもしれないですけど、いつクビになっても後悔のないように、先もそう長くない、という思いでシーズンに臨みました」

 覚悟を決めて臨んだ一年。持ち味の守備、走塁に加え、春季キャンプから打撃でも必死のアピールを続けた。着実に結果を残し、スタメン出場も増えたことで、これまでの通算安打を上回る11安打を放ち、2013年以来となる打点も記録した。

「打席に立つ以上は結果を残さなければならないので、常に準備はしっかりしているつもりです。これまでもそうでしたが、集中力して打撃練習から熱を入れてやっています。守備練習も同じです。練習から一球一球集中力を持って、大事にノックを受けるようにしています」

 これまでと変わらない“一球に対する集中力と一打席に対する思い”を胸に、今シーズンは、攻守においてこれまでとは違う輝きを放った上本。今季の経験を糧にして、来季は、より進化した背番号0の姿を見せてくれるはずだ。

●試合結果
8月28日
カープ4ー3阪神
勝:フランスア 1勝1敗7S
負:岩崎 2勝2敗
本塁打:(広)菊池涼5号、坂倉3号(阪)大山13号