V奪回を目指しスタートをきる佐々岡カープ2年目で、大きな注目を集める河田雄祐一軍ヘッドコーチ。かつて2016年、カープのユニホームに20年ぶりに袖を通した河田コーチは一軍外野守備走塁コーチとして、選手たちを熱血指導。25年ぶりの優勝を成し遂げたチームのキーパーソンとして、存在感を高めていった。今回は当時のカープを語る上で外すことができない“機動力野球の復権”というテーマから河田コーチの功績を振り返っていく。

2016年、外野守備走塁コーチ時代の河田雄祐コーチ。攻撃時は三塁ベースコーチとして、的確な判断でチームの機動力、得点力アップに貢献した。

◆視点を変える。リーグトップの盗塁数の裏にあった意識改革

 当時若手が多く在籍していた外野陣の守備力を向上させるだけでなく、河田コーチはチーム全体に影響を及ぼした『走塁改革』にも着手した。一軍外野守備走塁コーチ、三塁ベースコーチとして、コーチ就任と同時にチームの走塁意識に変化を加えていった。

 その変化は明確に数字として現れた。田中広輔や丸佳浩、野間峻祥など、当時から足が魅力の選手が数多く一軍メンバーに在籍しながらも、2015年のチーム全体の盗塁数はセ・リーグ4位の80個。しかし、リーグ優勝を果たした2016年はリーグトップの118盗塁を記録。翌2017年も112盗塁(セ・リーグ1位)を重ね、チームとして2年連続で100盗塁を記録するなど、河田コーチの就任と共にカープは一気に“走るチーム”へと変貌を遂げた。

 河田コーチが仕掛けたのは、盗塁技術のレベルアップではなく、各選手の走塁意識を変えることだった。

「技術的なことを言うと、普段スチールをしない選手は、牽制でアウトにならなければ良いという考えが多いんです。なので、帰塁しようという意識が強くなって一塁ベースに体が向きがちになります。そういう考えだと、いつまでたっても二塁にいくためにタイムロスが生まれてしまいます。ですので昨秋から、まずは『牽制がないとして、二塁にタイム走をするとしたら、どういう構えを取るか?』という部分の練習から始めました」(『広島アスリートマガジン』2016年9月号)

 帰塁を前提にした視点ではなく、いかに早く走るかを第一に考える視点を選手に与えることで、脚力に自信のある選手のみならず、チーム全体へ高い走塁・盗塁意識が根付いていった。

「盗塁は技術的には形、そして判断力の2点が大事だと思います。最終的には選手たちの気持ち次第ですからね。チーム全体としても、盗塁企画数が多くなり、確率も上がっていると思います」(『広島アスリートマガジン』2016年9月号)

 この河田コーチの教えが最もハマったのが、2016年から1番に定着していた田中広輔だろう。俊足巧打のバッターでありながら、2015年の盗塁数は6。しかし2016年には28に増え、2017年には35盗塁を記録し、盗塁王に輝いた。

 また、走塁の意識改革の成果が出たのは、盗塁数の向上だけではない。すべての選手が常に先の塁を見据えた走塁を心がけ、そこに石井琢朗打撃コーチがもたらした“つなぐ意識”が見事な融合したことで、決定打不足に泣いた2015年から、チームの打撃成績は飛躍的に向上。セ・リーグNo. 1と言っても過言ではない強力打線を形成した。攻撃面で、河田コーチがもたらした「走塁改革」がチームに与えた影響は計り知れないものがあった。

(Vol.3に続く)