仮に143試合が実施されなかった場合、選手の年俸はどうなるのか。野球協約の『第91条・参稼報酬の減額』には、こう記されている。

 〈選手がコミッショナーの制裁、又は統一契約書に表示された野球試合、合同練習若しくは旅行に直接関連しない事由による傷病のため野球活動を休止する場合、球団は野球活動休止1日につき統一契約書に約定された参稼報酬の300分の1に相当する金額を減額することができる。ただし、疾病又は傷害による野球活動の休止が引き続き40日を超えない場合はこの限りでない〉

 04年、球団数の縮小に抗議した選手会が、ストライキを打った際には、この条文の適用が検討された。しかし、今回は感染拡大が『野球活動休止』の事由ゆえ、「野球協約上、減額する理由は見当たらない」(小林至・元福岡ソフトバンク取締役)と解釈するのが一般的だ。

 とはいえ、「球団も減収を余儀なくされるのだから、選手も痛みを分かちあうべき」との声が上がれば、選手会も抗えない可能性がある。ただし難しい交渉になるだろう。

 審判員には既に影響が出始めている。審判員の場合、年俸に加え、オープン戦や公式戦は、1試合につきいくらという具合に手当てが保証されているのだが、この分がカットされる可能性がある。ある審判員は「今年はコロナの影響で練習試合が増えた。練習試合だと弁当代くらいしか出ないんです」と不安げな表情で語っていた。

 プロ野球選手からも感染者が出た。阪神の藤浪晋太郎、伊藤隼太、長坂拳弥の3人だ。これを受け、カープの鈴木誠也は「阪神の選手が練習できない中、僕たちが(練習を)やっていいのかという思いはある」と球界の仲間たちを思いやった。

 プロ野球という娯楽のない日常が、いかに味気ないか。それを痛感する2020年の春である。

二宮清純 (にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。広島大学特別招聘教授。RCCラジオの影響でカープファン。スポーツジャーナリストとして、『プロ野球「衝撃の昭和史」』(文春新書)、『最強の広島カープ論』(廣済堂新書)、『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)など著書多数。最新刊は衣笠祥雄、江夏豊との共著『昭和プロ野球の裏側』(廣済堂新書)。広島アスリートアプリでは毎週月曜日にコラム「追球カープ」を連載中。webマガジンSPORTS COMMUNICATIONSも主宰する。