今シーズンのプロ野球はセ・リーグがヤクルト、パ・リーグがオリックスと両リーグ共に、前年最下位だったチームが優勝となった。その中で前年5位のカープは、1つ順位を上げたものの4位。3連覇後、3年連続Bクラスに終わった。

4年ぶりに復帰した河田コーチの下、走塁面の意識改革に取り組んだが、結果が出なかった。

 巻き返しが期待された佐々岡カープ2年目であったが、コロナ禍の影響などもありながら投打の歯車が噛み合わず、苦しい戦いが続いた。その一方で多くの若手選手が躍動した。

 打撃面に注目すると、チーム打率がリーグトップを推移する中で、盗塁数はリーグ3位の65。3連覇中の盗塁数はいずれもトップだっただけに、機動力という面で言うと機能したと言い難い数字が残っている。

 ここではカープOBでもある笘篠賢治氏に、今季カープの攻撃、機動力について語ってもらった。

◆足を使って、一、三塁の形をつくること

 今シーズン、カープ攻撃面の采配でずっと気になっていたことがあります。ヒットエンドランなど足を絡めた采配が、思っていたより少ないように感じました。

 「走れるなら走ってもいいよ」「打てるなら打っていいよ」というのは〝采配〟ではなく〝選手任せ〟です。

 相手バッテリーの攻め方を考えながら、「ここは走りなさい」「打ちなさい」と、同じヒットエンドランでも「ヒットを狙うようなバッティングをしよう」というような形を取ることが采配です。  盗塁だけが相手にプレッシャーをかけるわけではありません。ヒットエンドランという作戦も塁上でスタートを切るという意味では同じです。相手バッテリーに考えさせる、つまり嫌がられる材料のひとつになります。

 そういう攻め方が少ないことが「機動力がない」と見えることにつながっていくわけです。足を使うことによって〝一・三塁をつくる〟、これが一番点を取りやすい攻撃パターンです。

 3連覇中は、この一・三塁の場面が数多く生まれていました。今季はそれが見えてこないことで「機動力がない」と思われる要因になっているように感じます。

 機動力が使えるとなると、打順も大盛穂、羽月隆太郎、上本崇司あたりが1番候補になってきます。要するに上位打線が足で仕掛けられるかがポイントです。

 今季リーグ優勝を果たしたヤクルトの例を紹介すると、4番の村上宗隆も走る意欲を見せています。いまや村上が一塁に出たら相手バッテリーは足を警戒せざるを得ません。これは本来カープがやりたい野球のはずです。

 ヤクルトも2年連続Bクラスだったため、やりくりしながら投手を起用しています。驚くような補強をしているわけではないですが、得失点差はプラス99点。 チーム打率がリーグ1位のカープは得失点差マイナス37(10月28日時点)。この差が〝采配〟に出ているのではないでしょうか。