地元球団であるカープで活躍した新井貴浩氏に、カープファンだった幼少期も含め、さまざまな思い出を語ってもらう本連載。前編に続き、佐々岡真司監督との思い出を語ってもらった。

2015年からは首脳陣と選手という関係で佐々岡真司現監督と共闘した新井貴浩氏。

◆人知れず行われた決起集会

 佐々岡さんは2007年に引退をされましたが、すごく可愛がってもらっていただけに、あの時はすごく寂しい思いでしたよね。そんなシーズンに、佐々岡さんの人柄が伝わってくる、僕的な名場面がありました。当時、旧広島市民球場でご自身の引退試合で投げられた翌日、東京でのヤクルト戦がありました。

 その試合は佐々岡さんと同じく、引退が決まっていた古田敦也さんの引退試合でした。何と佐々岡さんは前の試合、自分の引退試合で登板しているのに、古田さん1人限定でマウンドに上がられたんです! この場面は読者のカープファンのみなさんも覚えていらっしゃると思います。

 普通に考えてみれば、100勝100セーブという大記録を残した投手が自分自身の引退試合を行ったら、そこで現役最後、となると思うんですが、その後に投げるなんて考えられない事ですよ! 古田さんと佐々岡さんはプロ入りが同じ年(1989年)ですし、アマチュア時代から旧知の仲であり、良きライバルということもあって、『古田さんのために一肌脱ごう』という佐々岡さんの優しさが分かるエピソードですよね。今思い返してみても、感動的なシーンだったと思います。

 そして佐々岡さんとは不思議な縁を感じる、忘れられない出来事があるんです。2014年11月、僕はカープ復帰が決まりました。そして年末には黒田(博樹)さんもカープに復帰されました。実はそのタイミングは、佐々岡さんも野球解説者を経て、カープに二軍投手コーチとして復帰されることが決まっていました。そういう事もあり、佐々岡さんが僕ら2人を自宅に招待してくれ、奥様が手料理を振る舞ってくれました。言ってみれば〝3人だけの決起集会〟みたいなものですね。

 考えてみれば、3人とも2007年のシーズンを最後にカープを離れているんです。佐々岡さんは現役引退、黒田さんはメジャーへ移籍、僕は阪神へと移籍。そして8年後に経緯は違えど、同じタイミングでカープに復帰しているんですよ。食事をしながら佐々岡さんも「すごいタイミングやな」と言いながら、「これからまた一緒に頑張ろうな」という話をしたのも、本当に良い思い出ですし、個人的に佐々岡さん、黒田さんとの強い縁を感じました。

 佐々岡さんはカープに復帰後、二軍投手コーチを4年、一軍投手コーチを1年務められて、昨シーズンからは一軍監督に就任されました。監督1年目の2020年、期待される中で大変苦労されたシーズンだったのではないか思います。

 僕が思うには、チームは3連覇を果たした頃と比べれば戦力的に変化をしている時期だと感じていました。それに加えて昨シーズンは、投手陣で(大瀬良)大地やK・ジョンソン、中﨑(翔太)ら。そして野手陣では(西川)龍馬だったりと、期待していた主力選手にケガ人が続出してしまいましたよね……。チームに変換期が訪れている、そういう状況で監督を引き受けられて、あれだけ主力選手が故障してしまうというのは、本当に大変だと思いますし、試練のシーズンを過ごされたと思います。

 ただ、夏場以降は多くの若手選手たちにチャンスを与え続けて、その選手たちが躍動しました。佐々岡監督が先を見据えた思い切った若手起用によって、チーム力は底上げされていますし、そう考えると今シーズンはすごく楽しみが多いですね。2021年こそは、佐々岡監督の笑顔をたくさん見たいですね!