2021年開幕に向けて順調にオープン戦を消化している佐々岡カープ。次々に台頭する新戦力の中でOB笘篠賢治氏の目にとまった気になるルーキーについて語ってもらった。

前評判の高かった守備だけでなく、打撃でもアピールしている矢野雅哉選手。

◆往年の名内野手を感じさせる動き

 ドラフトには順位がつきものです。ただ1位の選手だけが活躍する世界でもないのが面白いところ。カープのルーキー・矢野雅哉を見ていて、改めて『順位なんて関係ないんだ』と思いました。

 最新のカープドラフトは投手を中心に指名した中で、育成指名を除いて唯一の野手。その野手がドラフト6位。どんな選手なんだろうと思っていたのですが、いざ見てみると身体能力が抜群で、非常に良いものを持っていました。肩の強さや守備に自信があるという触れ込みだっただけに、バットの方はイマイチなのかと思いきや、これがなかなかセンスが良いんです。いわゆる“壁”が崩れない打撃をしていて驚きました。

 2月28日の日本ハムとの練習試合、宮西尚生から三遊間を抜ける当たりのヒットを打ったシーンのことです。普通であれば腰が開きそうなところでも、まったく開かないんです。左のサイドスローという変則投手だったのですが、一切苦にしていない感じでした。おそらく右左関係なく打てるタイプだと見ました。イメージとしては打線の切り込み隊長的な、いかにもカープらしい選手ですよね。

 守備に関しては、三塁も守っていましたが、やはり二遊間タイプでしょう。セカンドやショートのスローイングは、肘から先でピュッと投げる、スナップスローのような感じの投げ方がメインになります。ただ、サードを守るとなると、踏ん張って肩で投げる必要が出てくるので、どちらかというと遠投に近いイメージになってきます。サードはどちらかというと外野の投げ方に近いんですよね。複数ポジションを守る選手は、そこを使い分けないといけないところなのですが、そのときにセカンドやショートと同じように肘が下がった投げ方をしているのが少し気になります。

 ショートを守っているときは、足を使った良い守備を見せていますよね。特徴としては一歩目の動きが早いですね。そして、捕ってから投げるまでの動きもシャープに見えるので、レギュラーの田中広輔にも刺激を与えられる存在だと思います。走攻守、トータルで矢野という選手を見てみると、玄人好みする正田耕三さんみたいなタイプですよね。味があるカープに合った選手だと思います。

 さて、ここから彼にとって大事な時期です。シーズンが始まってからのプレッシャーというのは、練習試合やオープン戦とはわけが違います。そのプレッシャーの中でいかに結果を出すことができるか。今以上は求めなくていいので、現状できることを精一杯出せるかどうかが大切なのです。もうそろそろ投手もオープン戦仕様からギアチェンジしえ開幕仕様になってきます。本来であればそこでもっと打席に立たせてあげたいですね。いろいろなことを試しながら投球していた投手が、本番を迎えるにあたって段階を上げてきますから。その違いを、勝負の世界で生きるプロの投手の本気を感じてもらいたいですね。

 とはいっても矢野は今年がプロ1年目。経験がないだけに、まず1年間でいろいろなことを経験することが大切です。まずは思い切ってがむしゃらにやって、たくさん経験を積んで、大きく育っていってもらいたいと思います