2019年10月に現役引退を表明した梵氏。引退を機に一度、コーチも退任したが、今後もさまざまな形で野球に関わっていくという。

 カープを退団した梵氏は、新たな所属先を探し日夜奔走していた。そんなか日産自動車時代の先輩から、かつてダイエーホークス(現ソフトバンク)に所属していた養父鉄氏を紹介される。養父氏はアメリカのマイナーリーグや独立リーグ、ベネズエラ、台湾などでもプレーした経験を持ち、海外の野球界傾斜にパイプを持つ人物だ。

 2018年2月、わずかな可能性にかけて梵氏はアメリカに渡った。平日はジムで汗を流し、週末はトライアウトを待つ同じ立場の選手たちとの調整試合。12月末には日本の独立リーグからオファーが入っていたが、本気でアメリカでのプレーを目指していた梵氏は丁重に断りを入れていた。

 3月から4月上旬にかけ、ようやくマイナーリーグや独立リーグのトライアウトを受けられる機会が巡ってきた。しかし、年齢がネックとなり最終選考まで残るものの、色よい返事は返ってこなかった。自身が決めたタイムリミットが迫るなか、その後の野球人生を大きく左右する一本の電話が日本からかかってきた。

「実はエイジェックという会社が栃木で社会人野球チームを立ち上げようという話があるんです。もし良かったら力を貸してくれませんか?」

 まったく予想もしていなかった社会人野球チームからのオファー。入団条件は『選手兼任コーチ』。指導経験を積むことは、自身の将来を考えたときには必ずプラスになる。ましてや育ててもらった社会人野球に恩返しすることができれば行く意義もある。梵氏の意志は固まった。

 2018年6月、栃木県小山市を拠点とする社会人野球チーム『エイジェック硬式野球部』に選手兼コーチとして加入した。自身のルーツである社会人野球へは13年ぶりの復帰だった。かつてカープファンを熱狂させた梵氏が、再び背番号6を背負い第2の野球人生をスタートさせた──。

●梵 英心(そよぎ えいしん)
1980年10月11日生、広島県出身。三次高-駒澤大-日産自動車-広島(2006~2017年)-エイジェック(2018年~)。2005年大学生・社会人ドラフト3巡目でカープ入団。2006年に新人王を受賞。2010年には打率3割(.306)をクリアし、43個で盗塁王、ショートとしてゴールデン・グラブ賞にも輝いた。2013年には選手会長に就任。2017年オフにカープを退団。2018年に社会人野球・エイジェックで選手兼コーチとしてプレー。2019年10月11日に現役引退を発表した。