スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 羽月隆太郎が止まらない。4月29日現在、打率3割8分9厘、出塁率4割3分6厘。10対1で大勝した27日の横浜DeNA戦ではプロ初の猛打賞を記録した。

 羽月の最大の武器は50メートルを5秒7で走り切る俊足だ。ボテボテのゴロは、まずセーフになる。守る側は嫌だろう。

 加えて言えばバットコントロールがいい。低めの変化球にも器用に対応している。「バットに当たりさえすれば何とかなる」という自信が本人にはあるのだろう。

 しかし、この器用さが時に災いすることもある。「見逃せばボールなのに」という低めの変化球に手を出し、相手投手を助けている場面を何度か目にした。

 これは以前にも書いたが、高卒3年目の羽月には“器用貧乏”に終わってもらいたくない。「史上最高のリードオフマン」と呼ばれる福本豊(元阪急)を目指してもらいたいのだ。羽月167センチ、67キロ。福本167センチ、68キロ。体付きは、ほとんど変わらない。太ももの張りを見ていると、下半身は羽月の方がしっかりしているようにも思える。

 この福本、入団当時は足をいかした、いわゆる“当てにいくバッティング”を求められたこともあるという。しかし、福本はそれを拒否し、振り切るバッティングに徹した。結果として2ケタホームランを11回も記録している。

 自著『走らんかい!』(ベースボール・マガジン社新書)に、こういうくだりがある。<自分の成績の中で、ひとつだけ自慢したい数字がある。それは通算盗塁数(1065)ではない。2543本のヒットでもなければ、115本の三塁打でもない。20年間で打てた208本のホームランである。>

 羽月にも2ケタのホームランを目指してもらいたい。ツボにくれば一発がある、とわかれば、投手も安易にストライクを取りにこなくなる。いきおい、四球が増えれば、自ずと盗塁も増える。チームへの貢献度も、より高くなる。こぢんまりとまとまらないで欲しい。彼のポテンシャルは、まだまだこんなものではない。

(広島アスリートアプリにて2021年5月3日掲載)

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。