サンフレッチェ広島OB・吉田安孝氏がチームに対する愛情と情熱をぶつける全力コラム。今回は、東京五輪に出場したサッカー日本代表の戦いについて振り返る。
◆勝つためには得点を獲れるストライカーが必要
17日間にわたる東京五輪、みなさんもテレビにかじりついて観ておられたのではないでしょうか。今回は、まず日本代表チームの戦いから振り返っていきたいと思います。
グループリーグは3戦全勝で、世界に通用するサッカーを見せてくれたと思います。ただ、中2日での決勝トーナメントの戦いは厳しかった。メダルをかけて挑んだメキシコとの3位決定戦。どの選手も疲れからか、気持ちはあるのに体がついてこないもどかしさがあったように感じました。ただ、素晴らしい戦いを届けてくれたのは間違いありません。残念ながらメダル獲得とはなりませんでしたが、全身全霊でプレーする選手たちの姿に心を打たれました。
これは日本代表の永遠のテーマですが、勝つためには得点を獲れるストライカーが必要です。出場した選手は攻守においてチームのために必死に動いてくれましたが、FWは結局、点を獲ってこそ。チャンスは何度もあったので、そこで決められるかどうかです。準決勝のスペイン戦、0ー0で迎えた延長戦、相手のひと振りで試合を決められただけに余計にそう感じました。
やはり、ストライカーのいるチームのほうが勝つ確率は高くなります。53年前に日本がメキシコ五輪で銅メダルを獲得できたのも、絶対的なストライカー・釜本邦茂さんがいたからこそ。もちろん当時と今では、サッカーの内容は全く違いますが、点を獲ったチームが勝つという事実は変わりません。
このストライカー不足は日本代表だけでなく、世界各国でも言えることですし、サンフレッチェもそうです。良い崩しや良い攻撃の形をつくることはできますが、最後の最後、肝心の仕上げの部分が決まらない。これまで何度も言ってきましたが、本当にこれに尽きます。
GKとストライカーは、直接得点に絡む特別なポジションです。GKコーチが定着しているように、ストライカーの専属コーチも必要だと思いますね。ジュニアの頃からしっかり指導するべきです。
個人的な思いとしては、佐藤寿人にサンフレッチェのストライカーコーチとして帰ってきてもらいたいです。Jリーグ通算得点は歴代1位の220得点。寿人がなぜこれほどまでに得点を獲れたかというと、練習からゴールを決めることにこだわって、考えながらプレーしていたからです。相手との駆け引きだけではなく、味方との駆け引きにも徹底的にこだわっていました。ときには激しい口調で、駒野友一(現在はFC今治)や青山敏弘に強く要求していました。寿人がやってきたことを今のFWの選手がやっているか。青山をはじめとしたパサーに自分の要求を伝えているか。ここの意識を変えていかないとストライカーは育っていかないと思います。
◆東京五輪に出場した大迫。悔しさを糧に次のステージへ
サンフレッチェから東京五輪日本代表に選ばれた大迫敬介は残念ながら試合に出場することができませんした。直前まで代表の正GKだっただけに誰よりも悔しい思いをしていると思います。しかし、試合中は、ベンチから出て一番前に立ち、ピッチにいる選手と一緒に戦っているという姿勢をみせてくれていました。たとえピッチに立てなくても、チームのために動いた経験は、大迫を選手として一回り大きくさせたのではないでしょうか。
また、大迫にとっては東京五輪が最終目標ではありません。A代表の座を勝ち取り、来年のW杯に出場するという次なる目標があります。そこを目指すだけの力がありますし、彼は失敗をバネにして、ステージを一つひとつ上げて成長していく選手なので、今回の経験はすごく大きかったと思います。これから飛躍的に伸びる可能性は充分にあると感じています。
今回、東京五輪を通して、さまざまなスポーツにふれたのですが、改めて感じたのは〝夢中になってやることが大事〟だということです。私も経験がありますが、スポーツにのめり込んでいるときは、努力しているとは思っておらず、時間を忘れ、ただただ夢中になっています。相手に勝つとか負けるではなく素直にそのスポーツの魅力と向き合っているので、試合が終わった後に相手を称えることができるのだと思います。もちろん、サッカーや野球など、メジャーなスポーツになればなるほど、いろいろな要素が絡んでくるため、結果を求められますし、ただ熱中するだけでは通用しません。しかし、東京五輪では〝本来のスポーツのあるべき姿〟を見せてもらえたような気がします。