コロナ禍が始まってから、1年半近くが経ちます。思い返せば、昨シーズンは開幕が大幅に延期。6月に公式戦が始まるまでの間、私たちは「試合がない」という非常事態を経験しました。開幕してもしばらくは無観客で、選手とファンは同じ空間で喜びや悔しさを共有する場を奪われました。

 そんな2020年、実はプロ野球選手の影響力を改めて感じられる、とても貴重な機会があったのです。

◆コロナ禍で選手とファンが結束

 『ステイホーム』という言葉があちこちで呼びかけられるようになった2020年4月。初めての緊急事態宣言下において、私はプロ野球選手のチャリティー活動をサポートするベースボール・レジェンド・ファウンデーション(BLF)の代表として何かできないかと模索していました。試合もできない、練習もできない、ファンと触れ合うこともできない。プロ野球選手は無力なのか、いや、そんなことはない。そんな思いを巡らせていました。

 私のまわりには、実際に行動を起こそうとする選手もいました。でも、当時はコロナが何物かもまだわからない。マスクが足りないこと、医療が逼迫していることは報道で知っているけれど、じゃあどこの誰をどうやって支援するのがいいのか、情報が錯綜していてその答えになかなか辿りつくことができませんでした。

 そんな時、日本最大級のクラウドファンディングサービス・READYFORが、東京コミュニティ財団とともに『新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金』(通称コロナ基金)を立ち上げたと知りました。予め寄付の使途を決めてお金を集める一般的なクラウドファンディングとは異なり、寄付を集めながら同時進行で資金を必要とする団体に助成するという画期的な仕組みで、感染拡大状況が日々変化するコロナ禍に適した基金だと感じました。

 この基金にプロ野球選手が協力すれば野球ファンもそれに賛同して寄付がたくさん集まり、然るべきところに支援が届くのではないかと、BLFはこの情報を日本プロ野球選手会に共有しました。すると、選手会会長の炭谷銀仁朗選手が協力を即決し、12球団の選手会長もすぐに賛同してくれました。

 まずは選手会事務局を通じて約800名の現役選手に基金の情報を案内することになりました。その翌週には、ソフトバンクの中村晃選手や楽天の則本昂大投手、そしてカープの田中広輔選手ら各球団の選手会長たちがコロナ基金に寄付したことを自身や選手会のSNSで次々と発信。選手会長だけでなくソフトバンクの柳田悠岐選手、阪神の糸井嘉男選手らも続き、野球ファンに寄付を呼びかけてくれました。このアクションはスポーツ紙の一面を飾り、ニュースで連日報道されました。

 コロナ基金の寄付者だけが書き込めるメッセージ欄には、選手や球団所属のコーチらのメッセージがたくさん並びました。こちらが把握できただけでも200件は超えていたので、実際にはもっと多くの選手たちが寄付してくれていたと思います(寄付は任意なので一人一人確認はしていません)。

 もっとすごかったのは野球ファンの反応です。「コロナで試合がなくなったのでチケット分のお金を寄付しました」「〇〇選手が寄付したので自分も」「一日も早くプロ野球が再開できるよう寄付します」そんなメッセージが後を絶たなかったのです。選手とファンが同じ目線で同じ目的を持ち同じアクションを起こしている。試合がなくても選手とファンはこんなに結束できるのだなと、思わず胸が熱くなりました。

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岡田真理(おかだ・まり)
フリーライターとしてプロ野球選手のインタビューやスポーツコラムを執筆する傍ら、BLF代表として選手参加のチャリティーイベントやひとり親家庭の球児支援を実施。出身県の静岡ではプロ野球選手の県人会を立ち上げ、野球を通じた地域振興を行う。著書に「野球で、人を救おう」(角川書店)。