2021年に、広島アスリートマガジンWEBで反響が大きかった記事をお送りする「過去記事セレクション」。今回は、黒田博樹の女房役として活躍した倉義和(現カープ一軍コーチ)の入団秘話についてまとめた記事をお送りします。(公開日2021年9月)

捕手として19年の現役生活を送った倉義和(現カープ一軍コーチ)。4歳下の石原慶幸と共にカープ投手陣を支えてきた。

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 本企画では、かつてカープのスカウトとして長年活躍してきた故・備前喜夫氏がカープレジェンドたちの獲得秘話を語った、広島アスリートマガジン創刊当時の連載『コイが生まれた日』を再編集して掲載する。

 連載当時にエピソードを話してくれた備前氏は、1952年にカープに入団し、長谷川良平と投手陣の両輪として活躍。チーム創設期を支え現役時代は通算115勝を挙げた。1962年に現役引退後はカープのコーチ、二軍監督を歴任。スカウトとしては25年間活動し、1987~2002年はチーフスカウトを務めた。野村謙二郎、前田智徳、佐々岡真司、金本知憲、黒田博樹などのレジェンドたちの獲得にチーフスカウトとして関わってきた名スカウトだ。

 ここでは、1997年ドラフト5位で入団した倉義和(現カープ一軍コーチ)の獲得エピソードに迫る。プロ8年目の2005年に黒田博樹とのバッテリーで出場機会を増やし、チームに欠かせない捕手となった倉。2012年には前田健太のノーヒットノーランをリードで演出した。2016年限りで現役引退し、その後はカープでコーチを務めている。

 黒田の女房役として存在感を見せた倉が、カープに指名されるまでの秘話を備前氏の証言からお送りする。

◆まさに捕手向きの選手だった

 1997年のドラフト会議でカープは捕手を一人指名しました。それが倉義和です。関西地区を担当していた宮本スカウトから「強肩の捕手が京都にいる」という話を聞き、西京極球場まで彼を見に行きました。その試合で倉は強肩もさることながら、本塁打を打つなどバッティングも良かったのでドラフトで指名しようと考えました。

 この年のドラフトでカープは捕手を獲得することは既に決まっていました。その前々年に伊与田一範(千葉経済大学付属高)を捕手として獲得していましたが、彼はこれまで捕手経験が全くありませんでした。球団としてはゼロから始めて大成してほしいと考えていたのですが、捕手という特別なポジションということもあり、入団後4年で内野手に転向してしまいました。そういうこともあって捕手の補強は必須でした。

 カープが捕手を獲得するとき最も重要視していることは「肩=送球」と「捕球」です。

 まず「肩=送球」についてですが、私たちスカウトが捕手の肩を見るとき「捕球してから投げるまでの早さ」と「送球自体の速さ」の二つを見ます。それぞれの塁へ速いボールが投げられるというのはもちろん大事ですが、それだけでは駄目です。投手が投げたボールを捕球してからいかに小さなモーションで早く投げられるか、これも捕手として重要な要素なんです。大学生や社会人では本塁から二塁まで大体1秒台を基準としています。

 他にはスローイングの正確性を見ます。例えば送球したボールがスライダー回転をするようであればタッチする瞬間に三塁側にボールが流れてしまうのであまり良い捕手とは言えません。「肩」についてはそういうところを見ています。

 次に「捕球」についてですが、一番大切なことはミットの真ん中でしっかりボールを捕球できているかです。真ん中で捕れば「パン」と響くような良い音がしますが、少しでも外れると「バシッ」という鈍い音がします。投手はその音を聞き自分の調子の善し悪しを判断しますから、どんなボールでもしっかりミットの真ん中でキャッチできることが大事です。つまり、投手を安心させるような捕球ができているかどうかです。ギリギリのボールをストライクに見せるといった技術は、プロに入団する時点ではそこまで重視していません。

 また、リードが上手い・下手などと言いますがそれは結果論であって選手を獲得する際にはあまり重視していません。カープが捕手を獲得する上でのそういった基準を倉は満たしていました。その中でもとりわけ肩がとても強かったのです。

 初めて彼に会ったときの印象ですが、非常に真面目で頭が良い選手だなと思いました。捕手は誰よりも頭を使うポジションですから、頭の回転が速いことも必要です。そういう意味でも、まさに捕手向きの選手だということで、ドラフトでの指名に至ったのです。