カープから2年連続で新人王が誕生した――。森下暢仁と栗林良吏。すでにチームの“顔”になった二人の右腕は、高校時代はドラフトにかからなかった。それでも、大学、社会人で成長を遂げた陰には、共通する、ある“資質”が隠されていた。

2020年の新人王・森下暢仁(右)と2021年の新人王・栗林良吏。

◆大学、社会人での急成長で同期の高卒ドラ1をごぼう抜き

 12月15日に行われた「NPB AWARDS 2021」で、栗林良吏が今季のセ・リーグ新人王に選出された。DeNA・牧秀悟との一騎打ちと思われた新人王争いだが、投票結果は栗林・201票、牧・76票と圧勝。予想以上に大きな差がついたとも言えるだろう。

 新人最多タイ記録となる37セーブのほか、クローザーとして圧巻の防御率0.86、金メダルを獲得した東京五輪での胴上げ投手など、「記録」にも「記憶」にも残る活躍を見せた、カープの守護神・栗林の新人王選出に異論を唱える者などいないだろう。

 カープとしては2020年の森下暢仁に続き、2年連続の新人王輩出。「次期エース候補」と「若きクローザー」、次世代のカープ投手陣を支える二人の右腕は、今やカープに欠かせない存在となっている。

 栗林、森下ともにドラフト1位入団。最速150キロを超える速球を武器に三振も奪える「本格派右腕」でもあるが、改めて二人のキャリアを振り返ってみると、大きな共通点があることに気付く。

 森下は大分県・大分商高で、栗林は愛知県・愛知黎明高で高校時代を過ごしているが、二人とも、当時は決して「世代トップクラス」の投手ではなかった。本格的な投手転向は共に高校在学中。森下は投手転向から間もなくしてU-18日本代表に選出されているが、当時のことを本人は「お客さんみたいなもの」と語っている。代表には選出されたものの、同世代には、小笠原慎之介(中日)、髙橋純平(ソフトバンク)、平沢大河(ロッテ)、オコエ瑠偉(楽天)らすでに全国にその名を轟かせるスーパースターたちがいた。

 栗林もそうだ。高校時代は、はっきり言って無名の存在。同学年には岡本和真(巨人)、髙橋光成(西武)といった、高卒でドラフト1位指名を受け、後にプロでも主力となる逸材がそろっていた。

 同級生のスターが高卒でプロ入りを果たす一方で、森下は明治大、栗林は名城大へ進学。ここで転機が訪れる。カテゴリが上がり、周囲のレベルもアップしたことで投手としての才能が開花。在学中にはともに大学日本代表にも選出され、森下は卒業と同時にカープにドラフト1位で入団。栗林はトヨタ自動車を経て、1学年下の森下から1年遅れでプロの門戸を叩くことになる。

 プロ入り後の活躍はご存じの通りだが、大学、社会人という高校卒業後のカテゴリでしっかりと成長できた陰には、あくなき「向上心」があることは間違いない。

 森下は大学時代のことを「レベルの高い先輩たちがいて、自分も『ああいう選手になりたい』と思いながら毎日練習した」と語る。栗林もまた、大学時代にドラフトで指名漏れを経験し、プロを諦めるつもりで社会人入り。しかし、そこで「2年後、見返したい」と奮起して1年目からエース格へと成長。後のドラフト1位へとつなげている。

 ちなみに、森下と同期で高校野球日本代表に選出されたメンバーのうち、2020年夏に開催された東京五輪に出場したのは森下だけ。栗林の世代の高校日本代表からも、東京五輪出場を決めたのは栗原陵矢(ソフトバンク)だけだ。

 プロ入りまでの道程を考えると、「遠回り」だったかもしれない。ただ、遠回りしたからこそ、同期の高卒ドラフト組を「ごぼう抜き」できたとも言える。

 あくなき向上心を胸にプロ入りを果たし、飛躍したふたりの若き右腕。

 カープの未来は、彼らが担う――。

文/花田雪