サンフレッチェ広島OB・吉田安孝氏がチームに対する愛情と情熱をぶつける全力コラム。4月以降、快進撃が続くサンフレッチェの戦いについて語ってもらった。※取材は5月上旬。

5月の柏戦で今シーズンリーグ初得点。献身的なプレーも光るジュニオール・サントス。

◆ぶっつけ本番に結果で応えた選手たち

 首位チームをエディオンスタジアムに迎えた5月7日の一戦。我らがサンフレッチェは、強豪・鹿島を3-0で下すという、サプライズともいえるほどの強さを見せつけてくれました。まず驚かされたのが、フォーメーションです。試合前にメンバー表を見たときには、4バックでいくものだと思っていたのですが、試合が始まってみると、その予想は裏切られることになります。

 3バックには佐々木翔、荒木隼人、塩谷司を起用。ジュニオール・サントスと新加入のナッシム・ベン・カリファを2トップに置き、さらに中盤は1ボランチ(アンカー)に野津田岳人、その1つ上のポジションに森島司と満田誠を配置。この3人が絶妙なポジションを取りながら中盤を支配していました。

 この起用は想定外で驚きましたが、結果的に、これが見事にハマりましたね。このフォーメーションで挑むことは、選手たちにも試合の数時間前に伝えられたそうです。まさに『ぶっつけ本番』ともいえるフォーメーションでしたが、チャレンジしたスキッベ監督の采配も、臨機応変に対応し結果を出した選手たちも素晴らしいと思います。

 今回の2トップ起用で、サントスの良さを引き出すこともできました。ワントップはFWでありながら、ファーストDFとして守備スキルの高さも求められます。そこをベン・カリファに任せることで、サントスの持ち味である、前への推進力を最大限に生かすことができました。1点目の柏好文のゴールも、ベン・カリファとサントスの2人の距離感がうまくいったことから生まれた見事な得点でしたね。

 そして満田が決めた2点目。あの芸術的シュートは、素晴らしいの一言です。

 サントスに縦パスが入った瞬間にスプリントをかけ、パスを受けるというよりはボールを奪うように引き取りドリブルシュート。相手DFの股下から逆サイドを狙い見事に決めました。ランニング、ドリブル、シュートのすべてに迫力があり、フィニッシュの精度も実に満田らしい。ゴール後にはコーナーフラッグに走り、かつての大エース・佐藤寿人を彷彿とさせるパフォーマンスも見せてくれました。

 彼からは、「2桁得点を決めて、自分が広島のエースナンバー『11』を付けるんだ!」という意識を感じますし、その可能性は十分にあります。この先さらに活躍してくれるだろうという期待しかありません!

 鹿島戦で1点目と3点目を決めた柏は、得点力での貢献度はもちろんのこと、それ以外のプレーでも存在感を放っています。柏は今シーズン、若手の台頭もあって試合に出ることのできない時期がありました。しかし左サイドのポジションを奪い返すと、得意の中への切り込みや周りを使ったワンツーで、攻守にわたってチームに貢献しています。これは、試合に出場できないときであっても、腐らずしっかりと準備をし続けているからこそできることです。ベテラン勢のサッカーに対する日々の取り組みや姿勢は、若い選手にも必ず良い影響を与えているはずです。だからこそ今シーズン、全員が最後のホイッスルが鳴るその瞬間まで、徹底してやり抜くことができているのだと思います。

 4月10日の福岡戦(○1-0)で柴﨑 晃誠が決めた劇的ゴールも、そんなチームの姿勢が表されていました。試合終了まで残り数分という状況であれば、ロングボールを上げて一気に攻めたいところですが、チーム全員がボールを大切につないで左サイドを崩し、フィニッシュをベテラン柴﨑がきっちり決めました。クロスを出した東俊希は足をつりながらも、最後は気持ちでパスを出したようです。全員が最後までやりきる姿勢が、今のサンフレッチェの強さといえるでしょう。