基礎を積み重ね、改善を続ける。このプロセスは打撃面でも同様である。今、ティー打撃では、高めの球を打ち込むことに重点を置いている。高めの球を上から叩くことで、ロスのないバットの出し方をマスターしようとしている。

 「それに下半身の使い方です。僕は左足が打つときに伸び上がってしまい、力が逃げてしまう傾向があります。それを左足で力をしっかり受けられるような形にもっていきたいです」

 練習時間に制約があるだけに、ポイントを明確にできるかどうかは大きなテーマである。スローイングの球筋、キャッチングの形、上から叩くスイングなど自分の取り組みを明確にして、石原貴は練習に臨んでいる。そして、投手のリズムも頭に入れながら、積み重ねた基本プレーを活用していくのである。

 藤原監督の記憶には、続きがある。

 「ある試合、石原貴は投手にリズム良くサインを出していました。しかし、よく見ると、ミットはなかなか構えないのです。おそらく、投手のリズムは変えないようにしながら、構えを遅らせることで打者を観察する間を作っていたのだと思います。こういうところが、実戦向きといわれるところだと思います」

 バズーカのような強肩というより、スムーズな動きで素早い送球を見せる。筋骨隆々からのスイングではないが、しぶとく球に食らいつく姿がある。このドラフト5位ルーキーは『実戦向き』の一言ではくくれなさそうである。

 基本の積み重ねと改善、さらには投手に寄り添う姿。背番号62は『地道』という名の『王道』を歩むに違いない。

取材・文/坂上俊次(RCCアナウンサー)
1975年12月21日生。テレビ・ラジオでカープ戦を実況。 著書『優勝請負人』で第5回広島本大賞受賞。2015年にはカープのベテランスカウト・苑田聡彦の仕事術をテーマとした『惚れる力』を執筆した