ドラフト5位入団ながら、キャンプでは首脳陣に好アピールを見せた大卒ルーキーの石原貴規。プロ入りまでに石原貴を指導してきた恩師の証言と共に、背番号62の今に迫る。

 

 気配りの男である。取材対応では、質問の真意を汲み取りながら、技術論やエピソードを的確に返してくれる。練習時も、チームメートの道具をさりげなく拾い上げる姿が印象的である。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、練習時間は制限されるが、向き合うスタンスは変わらない。投手がブルペンに来るまでの待ち時間に自分のキャッチボールは済ませておき、相手を待たせることはない。

 「キャッチボールは時間がないときでも、絶対やるようにしています。室内の40〜50メートルの距離ですが、ライナーの球筋と回転が良くスピンの利いた球を投げられるように意識しています」

 相手に気を配りながら、自分のポイントも外さない。ドラフト5位、身長173センチ。選手名鑑の文面に派手さはないが、石原貴規には『キャッチャー向きの性格』という絶大な武器がある。

 「だから、彼をチームのキャプテンに指名しませんでした」。そう語るのは、恩師である藤原忠理(天理大野球部監督)である。

 「持論なのですが、キャプテンは背負うものが非常に大きいです。キャッチャーとして投手のことを考え、自分のプレーを考え、さらにキャプテンもやるとなると、重圧もかかって活躍が難しくなるのではないかと思いました」

 藤原には忘れられない記憶がある。

 「石原貴は、とにかく投手の投げやすいリズムを優先するところがありました。しかし、ここ一番ではキャッチャーとして打者の狙いを観察する、ちょっとした時間が必要なこともあります。ピッチャーのリズムを大事にする気持ちはわかりますが、サインをゆっくり出すなどして間を作るようにアドバイスしたことがあります」