◆野球への純粋な思い。

—率直にお聞きしますが、移籍の理由は何だったのでしょうか?

「話が長くなってしまいますよ(笑)。ただ、移籍の理由はと言われれば、カープさんが声をかけてくれたから、ということです」

—やはり、決断までには悩まれたのではないですか?

「最初はいろんな葛藤がありました。悔しい思いはすごくあったし、プライドが邪魔している部分もありました。でもその葛藤って、結局は自分で消化しないといけないものだったと思うんです。プライドというものをどこまで掘り下げられるか、どこまで取り除かないといけないのか、ということ。今まで自分が積み重ねて登ってきたところから、どこまで下りられるんだろうという葛藤でした」

—ただ、今回の結論にたどり着けたことは、ご自身でも前向きに考えられたのではないですか?

「こういう選択になって僕はよかったと思っていますし、たまたまカープにお世話になることになりましたが、どこのチームに行ってもそう思えたはずです」

—入団会見の中で、『ゼロからのスタートじゃなくて、1からのスタートにしたい』と仰っていたのが印象的でした。その言葉からは、リスタートの中にもご自身への誇りのようなものが感じられました。

「そうですね。それはプライドのひとかけらかもしれません。僕自身が持っているカープに対する先入観、敵として戦ってきた印象というのはどうしても頭にあるのですが、それは持ち込みたくないと思っていますし、そういう意味ではゼロでもよかったのかもしれません。ただ、スタートラインに立つときに何も持っていないわけではないし、1だったらこれからかけ算すればいくらでも増えていきますが、ゼロだったらゼロのまま。そういう思いはありますね」

=後編へ続く=

石井琢朗◎1970年8月25日生、栃木県出身
足利工高-大洋・横浜-広島(2009〜2012、2013〜コーチ)-ヤクルト-巨人-DeNA