10月20日に開催された『2022年プロ野球ドラフト会議』。カープは事前の公表通り苫小牧中央の斉藤優汰を1位で指名。支配下で指名した7選手中4選手が“投手”というドラフトとなった。

 ドラフト会議は各球団スカウトの情報収集の集大成であり、プロ入りを目指すアマチュア選手たちにとっては、運命の分かれ道ともなる1日だ。カープはこれまで、数々の名スカウトたちが独自の “眼力” で多くの逸材を発掘してきた。ここでは、カープのスカウトとして長年活躍してきた、故・備前喜夫氏が語るレジェンド獲得ストーリー『コイが生まれた日』を再編集してお送りする。

 今回は、1999年ドラフト会議で3球団競合の末、ドラフト1位でカープに入団した高校No1左腕・河内貴哉の入団秘話をお送りする。

◆長身からの速球とカーブが“一級品”でした

プロ1年目の2000年、5月30日の巨人戦で高卒新人史上4人目の『巨人戦でのプロ初勝利』を果たした河内貴哉。

 カープ史上最高の左腕である大野豊氏の背番号『24』を受け継いだのが河内貴哉です。187cmの身体から140キロ台の速球と大きなカーブを投げる本格派のサウスポーで、1999年秋のドラフト会議では“高校生の目玉”といえる存在でした。

 中学生時代にシニアリトルリーグで全国大会3位になるなど、早くから好投手として知られ、國學院久我山高1年生の頃から、担当の苑田スカウトがマークしていました。ただ私が彼を初めて見たのは3年生となった最後の夏の西東京大会でした。これは彼が2年生の春に肩を痛め、9月までリハビリに専念していて投げなかった事も関係しています。

 東京では彼のピッチングを2試合見て、うち1試合は八王子まで行きました。第一印象としては、ストレートの速さに加えて、カーブも大きく割れて良かったと感じました。やや細身でしたが身体が大きいので、順調に育てば先発ローテーションに入れる投手になれると感じました。腕の振りやヒジの使い方もほとんど問題はありませんでした。

 ただしコントロールについては、ある程度の不安はありました。走者もなく、打者も下位打線というプレッシャーがほとんどない場面で、いきなり四球を与えてしまう場面を実際に目にしました。また、やや下半身が弱く見えた事と、ステップする前足(右足)が正面よりやや内側になる癖も気になりましたが、私は「身体を鍛えて投げ続けていけば、将来的には克服できるだろう」と思っていました。

 西東京大会は、決勝で延長12回の末、日大三高に敗れ、甲子園には行けませんでした。しかし同大会でのピッチングから、カープだけでなく、他球団からも注目を浴びる事となりました。ドラフトでは他球団との競合は避けられず、単独指名での獲得は困難と見られていました。

 特に同じセ・リーグの中日も河内獲得に本腰を入れていて、ドラフト直前には「彼の家族は『中日以外には行かせない』と言っている」という噂が流れた事もありました。しかしカープとしても高校側に挨拶を済ませており、「交渉権を獲得できれば彼は入団する」という感触を得ていたので、指名を回避する気は全くありませんでした。

 そして11月19日のドラフト会議当日を迎えました。河内を1位で指名したのは、この年セ・リーグで優勝した中日とパ・リーグ最下位の大阪近鉄、そして5位に終わったカープでした。

 抽選はウェーバー順で行われ、達川監督は2番目に引きました。そして3球団が一斉に封筒を開けた瞬間、達川監督が封筒の中の黄色い用紙を掲げてガッツポーズをした後、持っていたタバコ『ラッキーストライク』の箱を突き出しました。会場で見守っていた先代の故松田耕平オーナーや我々球団関係者は大喜びしました。会議当初から東京都杉並区の高校で待機していた苑田スカウトは早速野球部関係者に挨拶し、その日のうちに河内本人に『選択確定』の用紙が渡されました。

 我々がご家族の元に挨拶に行くと、お父さんが「拒否するという変な噂が出てしまって、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」と私達に謝り、「カープへの入団を前向きに考えます」とおっしゃいました。私は河内本人ともこの時に初めて話をしたのですが、リトル時代から挨拶や言葉使いなどを教育されていたようで、とても礼儀正しい印象だったことを覚えています。

【備前喜夫】
1933年10月9日生〜2015年9月7日。
広島県出身。
旧姓は太田垣。尾道西高から1952年にカープ入団。長谷川良平と投手陣の両輪として活躍。チーム創設期を支え現役時代は通算115勝を挙げた。1962年に現役引退後、カープのコーチ、二軍監督としてチームに貢献。スカウトとしては25年間活動し、1987〜2002年はチーフスカウトを務めた。野村謙二郎、前田智徳、佐々岡真司、金本知憲、黒田博樹などのレジェンドたちの獲得にチーフスカウトとして関わった。

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