主軸のコロナ陽性が相次ぎカープに激震が走った今年の8月。その緊急事態では若鯉たちが躍動した。CS進出に向けて熾烈な戦いが続く中、OB笘篠賢治氏が独自の目線で野手陣を解説する。
(本文中のデータは全て取材時、9月13日時点のもの)

緊急昇格した8月16日の中日戦では、人生で2本目、プロ初となるホームランを放った矢野雅哉。

◆“ポスト菊池”に名乗りを上げた矢野雅哉の送球術

 8月後半から9月にかけ、勝敗に波のある結果になりました。その要因の1つは、コロナ陽性による主軸選手たちの離脱が影響しているでしょう。ただ、その中でも若い選手たちの踏ん張りには目を見張るものがありました。

 阪神に3連敗(8月30日〜9月1日)をした後のDeNA戦(9月2日〜4日)では投打が噛み合い、3試合連続完封勝利という結果となりました。仮にこの状態のままカープが3位に入ると、恐らくDeNAとクライマックス・シリーズ(以下CS)ファーストステージを戦うことになるでしょう。嫌な意識を植え付けることができたのは、カープがCSを戦う上で有利になる効果があると思います。

 ここから打線に触れていきます。まず打順については、マクブルームを4番から後ろに下げました。この重要なタイミングでの打順変更はチームの覚悟を感じましたし、西川龍馬を4番に据え、坂倉将吾らが結果を残してチームが一丸となった雰囲気を野手陣に感じました。

 主軸選手が離脱した中では、若手選手の猛アピールがありました。個人的に印象に残ったのが、矢野雅哉です。私の見解では、守備面に関してはチームトップクラスのパフォーマンスを発揮できるのではないかと感じました。ショートに関しては小園海斗との争いになりますが、頑張り次第では、セカンドで“ポスト菊池”としても面白い存在になると思います。何より彼は、自身の送球に自信を持っているように見受けられます。送球に自信がない選手は慌ててしまい、ミスを生んでしまいます。送球が得意であれば“球をしっかりと取る”ことに集中できます。守備のスペシャリストとはまさに“送球”に自信があるという特徴があるものです。現在セカンドには絶対的存在の菊池涼介がいますが、若手が出てくることで起爆剤となり、高いレベルで成長していくことができるでしょう。

 打撃面においては、8月16日にプロ初本塁打を記録しています。走力もあり出塁が求められる選手ですが、あの本塁打に矢野の勢いを感じました。あの一発は逆方向へ打つイメージをしておきながら、内角を突かれたときに、体の回転で前で捌いていました。左打者で足が速いですし、出塁を目的とする選手があのような打撃を展開できると、追い込まれてからの粘りも生まれ、チーム打撃、つなぐ打撃に生きてくるでしょう。

 矢野はこの先、自分の出番もそうですが、次のキャンプが大事な意味を持つようになると思います。野間峻祥が切り込み隊長として1番の役割を果たし、菊池もまだまだやってもらわなければいけません。ですがチームとして、特に二遊間、センターラインはレギュラーが確立している間に、次の世代が育っていることがチームが低迷しないために最も重要なのではないでしょうか。

 =後編へ続く=