2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 5年間にわたるカープの監督期間を終え、今はようやく落ち着いてきたところだ。退任してから今日まで、「ああしとけばよかった」「こうしとけばよかった」と思うことは一度もない。不思議と過去のことはすべてありのままに受け取ることができる。全力を出し切ったという感覚があるのだろう。そういう意味では悔いのない5年間だったと言っていいと思う。

 ただ、5年前の自分自身を思い出すと面映ゆいところがある。43歳で監督を始め、現在48歳。もしも今の僕が当時の自分を見たら「おいおい」と声をかけることだろう。「おまえは魔法使いじゃないんだから、そんなにすぐにチームが変わるなんて思わない方がいいぞ」「そんなに焦って結果を求めるな。変化はゆっくり起こるんだから、目の前のことをやっていくしかないんだぞ」と肩の力を抜くように言うだろう。

 僕は監督になった頃、まだ自分のことを強い人間だと思っていた。厳しい指導者の下で鍛えられ、打たれ強く、タフな精神を持っていると思っていた。だが、いざ自分がトップに立ち、チームを率いる立場に就くと、これは並大抵の精神力でできる仕事じゃないと思わされた。何度も投げ出しそうになったし、「これ以上はもう無理だ」と思う瞬間も何度もあった。

 そんなときに手を差し伸べてくれたのは、オーナーであり、コーチであり、選手たちであり、つまりは周りの人だった。「もうちょっと頑張ってみようか」「だんだん良くなってきてるよ」「これからじゃないか」―そんな声をかけてくれた人たちのおかげで、僕はなんとか5年間、監督という仕事を務め上げることができたのだと思う。