今シーズンからカープに加入した左腕・戸根千明。プロ9年目通算175試合全てが中継ぎとして登板のスペシャリストだ。チームが危機に陥っている場面だからこそ、その真価が発揮される中継ぎというポジションにおいて、彼は一体どんな気持ちでマウンドへ向かうのだろうか。

現在は二軍で調整を続けるが、これから厳しい夏にかけ絶対に戸根の力が必要になる。

また戸根が投げているなと思われる投手に

—カープのマウンドに上がって、古巣の巨人に対して投げることに違和感はありますか?

 「まだ違和感というか、不思議な感覚があります。でも勝負事ですし、投げるとなるときっちりと気持ちを切り替えています。試合中は特別な意識をしていないつもりですね。マツダスタジアムのマウンドから見える真っ赤な景色は、いざ味方になると本当に心強いものです。
 僕が自らピンチをつくってしまった時でもファンのみなさんが、応援の拍手をしてくれてすごくうれしかったです。その拍手だけでも気持ちが昂揚しましたから、ぜひピンチを背負った投手には、拍手の応援を続けていただきたいです。ファンの方々の力は、本当にすごいなと改めて感じることができました」

—いつ呼ばれるか分からないリリーフとしての準備、気持ちのつくり方において大切にされていることはありますか?

 「試合の日は、この回あたりに出番があるだろうなという、おおよその見当をつけて、それに合わせて気持ちや肩をつくっていきます。中継ぎですからどの場面で出番が来るか分かりませんので、自分で予想をするしかないですからね。
 ただリリーフだからといって、特別難しいことをしているわけではないです。しっかりと体を動かして、いつでも行ける準備をし、臨機応変に対応していくだけですね」

—プロに入って以来、中継ぎ一筋で活躍されているスペシャリストですが、スペシャリストとはどんな存在だと考えていますか?

 「スペシャリストと呼ぶのは周りの人で、当の本人はきっと自分のことをスペシャリストだという自覚がないと思います。僕は筋トレが好きで、休みの日でもトレーニングに行くことがあるのですが、それに対して後輩が『すごいですね』と言ってくれるのです。
 でも僕からすれば、それはすごいことではなく、普段の生活の一部、当たり前のことです。努力ではなく、自分のコンディションを整えるための一つの行為。スペシャリストと呼ばれている人は、周りから見ると大変な努力をされているように見えますが、本人はその努力を努力だと感じてもいない。
 息をすること、歯磨きをすることと同じくらい、当たり前のこととして毎日積み重ねているのだと思います。ですから、そういった地味で当たり前のことを続けられる人こそ、スペシャリストだと思います」

—中継ぎとして数々のピンチを切り抜けてきた投手として、中継ぎの醍醐味や魅力を教えてください。

 「中継ぎは地味で目立たないポジションです。ですから中継ぎで出て打たれてしまったときに、新聞の一面を飾れる投手が一流の中継ぎだと思っています。巨人の山口(哲也)投手が、現役の時に中継ぎで出てきて打たれて試合に負けたことがあるんですが、次の日の新聞に『山口打たれる!』と大きく取り扱われていて、すごいなと思いました。
 先発や抑えが打たれて負けるなら、新聞でも取り上げてもらえますが、中継ぎの山口さんが一面でしたからね。そこまで登り詰めれば一流の中継ぎ、スペシャリストだと思います。僕もそんな投手になれたらと常に思っています」

—そんなスペシャリストを目指す戸根投手が、今シーズンに入って技術的に変えたことは何かありますか?

 「ありますけど……あまり言いたくないです。企業秘密です(笑)。自分の投球を第三者から見て、どういった傾向があるのかを考え、それに対して新たに、技術的にはもちろん、フォームからもアプローチし対策をした感じです」

—では最後に、今シーズンの目標を教えてください。

 「個人的な指標として、50試合は投げたいと言っています。チームが苦しい場面でも、良い場面でも僕はどこでも投げますと新井監督には伝えています。ファンのみなさんから『また戸根が投げてるな、どこでも使われるな』という印象を持っていただける、そんな存在を目指しています」

●とね・ちあき
1992年10月17日生、京都府出身。石見智翠館高-日本大-巨人(2014年ドラフト2位)-広島(2023〜)。プロ入り初年度から中継ぎとしてマウンドへ上がり、プロ1年目は46試合に登板し防御率2.88と素晴らしい成績を残す。そこから巨人の中継ぎとして定着したが、近年は出番が少なくなったため、2022年に初めて開催された現役ドラフトでカープへ移籍。今シーズンは17試合に登板し防御率3.68という成績を納めている(成績は6月12日時点)。