苦しみを味わった新選手会長の言葉

田中は入団1年目の2014年以降、常に一軍での活躍を続け、ショートのレギュラーに定着してからはフルイニング出場の記録を伸ばしていった。特に2016年~18年の3年間は「1番・ショート」の座が不動のものとなり、カープ三連覇の立役者とも言える。社会人出身ということもあってか、お立ち台に立ってもふざけることもなく、淡々と受け答えする田中。その様子は、以前テレビ番組で丸佳浩(現巨人)や菊池涼介に「コメントに感情がない」「死んだ魚の目をしている」といじられるほどで、田中本人も自らに対して「コメント力を上げろ!」と戒めていた(テレビ新広島「全力応援スポーツLOVERS」2017年7月29日放映)。

自らの仕事をきっちりこなし、受け答えにもそつがない田中。前任の「熱血」會澤に比べると、優等生特有の、どことなく冷めているようなイメージを持ってしまう。しかし、心の中には燃える思いがあるのではないだろうか。

昨シーズン、田中は開幕から打撃不振に陥り、フルイニング出場(635試合)も連続試合出場(636試合)もストップしてしまった。8月末には「右膝半月板部分切除手術」を受けたことが明かされ、膝が悪いのを我慢して出場していたのではと思うと、いたたまれない気持ちになったものだ。こうした苦しみを経ての選手会長就任。田中は、4位に終わった昨シーズンの悔しさを晴らしたいという思いが誰よりも強いはずである。

今年のキャンプの打ち上げで挨拶を行った田中は、「長いシーズン、うまくいかないことの方が多いです。その時にチームのために行動できる、チームのために自己犠牲ができる、そういったのを意識して、みんなで戦っていきましょう」と呼びかけた。この言葉は自らの経験を踏まえたものであっただろう。ただの「優等生」ではなく、苦しみも味わった会長。新会長のリーダーシップに期待したいし、何より気になるのは「優勝後のビールかけの時に、田中会長がどのような挨拶をするのか」ということである。今から楽しみにしていたい。

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オギリマサホ
1976年東京都出身。イラストレーターとして雑誌や書籍等の挿絵を手掛けるかたわら、2018年より文春オンライン「文春野球コラム」でカープ担当となり独自の視点のイラストコラムを発表。著書に『斜め下からカープ論』(文春文庫)がある。