クローザー・矢崎拓也が、その存在感を増している。

 2016年にドラフト1位で広島に入団。プロ1年目の2017年4月7日のヤクルト戦で先発としてプロデビューを果たすと、9回表1死まで無安打無失点に抑え、史上2人目となる『初登板でノーヒットノーラン』に迫るピッチングを披露した。

 その後はなかなか一軍定着とはいかなかったが、2022年にセットアッパーとして47試合に出場すると、今季は救援としてここまで23試合に登板。4勝0敗11セーブをマークしている。

 ここでは、9回の男として結果を残している矢崎の、カープ入団直後のルーキーインタビューを再編集してお届けする。

(初出は広島アスリートマガジン2017年3月号)

入団会見時の矢崎拓也(写真右)と緒方監督(当時)。慶應大卒の即戦力右腕として期待を集めた。

◆自分は変わらない

—— カープに入団してから時間が経過しましたが、チームの印象はいかがですか?

「みなさんフレンドリーに接してくれますし、雰囲気の良いチームだと思いました」

—— このインタビューでもそうですが、入団以来メディアへの対応時に見せている非常に冷静な姿が印象的ですが、その点は意識されていますか?

「マウンドでの自分はまた別だと思いますが、普段から何かに動じたりはあまりしません。性格としては冷静な方だと思います」

—— ドラフト1位で指名されたときはどのように思われましたか?

「指名されたことについてほっとしたのが一番です。1位という順位にはびっくりしました。ただ僕という人間は何も変わっていないのに、ドラフト1位という肩書きがつくことで、少なからず周囲が自分を見る目が変わってしまう部分はあると思いましたし、周囲の環境が変わっていくことに若干の戸惑いは感じました」

◆力と力の勝負に憧れ

—— 野球との出会いを教えていただきたいのですが、野球を始めたのはいつのことですか?

「小学2年生です。きっかけは父親から勧められたことです。周りの友達がサッカーをしていたので自分もサッカーをしていたのですが、父親から「サッカーは自分が球を触らなくてもゲームが成立する。だけど野球なら、試合に出れば必ず打席に立てるぞ」と説かれたことを覚えています」

—— 当時ポジションはどこを守っていたのですか?

「中学1年ぐらいまでは投手をしていましたが、その後高校1年時までは捕手をしていました。そして高校時代の監督から投手への転向を打診され、そこからずっと投手を務めています」

—— アマチュア時代の一番の思い出はなんですか?

「大学2年の春のシーズンで優勝した試合です。あのシーズンは最終戦の早慶戦までもつれただけに印象に残っています。〝勝った方が優勝〟という状況で、周囲からもたくさん応援していただきましたし、勝って優勝を決められたので良い思い出です」

◆プロの世界で爪痕を残したい

—— 素晴らしい上半身の肉体をお持ちだですが、ウエートトレーニングなどを積極的に行なっていたのですか?

「筋力については大学に入ってから積極的にトレーニングを行なうようになりました。大学に入って時間ができたということももありますが、他の人と自分を比較し、どんな点なら勝てるだろうと考えた末に、筋力を上げるトレーニングに行き着きました。自分が入学したときに、大学4年生の方々を見て、自分は足のバネでも勝てない、身長はこれ以上伸びないだろうし……、だけど筋力なら上げられると考えたんです。人と違うところで戦わないと勝てませんし、自分の個性を出そうと考えた結果です」

——  大学時代に一番成長したと思う部分はどこですか?

「自分自身は投手としてのレベルが全て成長したと思います。ただ分かりやすい指標という意味では、球速が上がったことという点が客観的に見ても成長した部分だと思います」

—— マウンドでは気迫溢れる投球をしていますが、気持ちは大事なものですか?

「投げたいという気持ちだけで、良い球が投げられたり、捕手の構えた所に投げられる訳ではありません。マウンドで考えているのは、いつも練習で意識しているチェックポイントぐらいです。マウンドに上がって打たれたいと思っている投手なんて一人もいないと思いますし、気持ちは後からついてくるものだと思っています」

《プロフィール》
矢崎拓也(やさき・たくや)
1994年12月31日生、東京都出身、右投右打、投手
慶應義塾高ー慶應大ー広島(2016年ドラフト1位)