「トップ昇格できると思っていた時期もあった。でも、できなかった」

 広島ユース時代、そして大学時代、二度の悔しさを噛み締めた加藤陸次樹は、いつか広島に戻りたい。いつか広島を見返したい……相反する二つの思いを胸に秘めながらストライカーとして成長を遂げた。そして2023年7月、ファン・サポーターを驚かせた電撃移籍。愛する広島に帰還し、今、再び紫のユニホームに袖を通した加藤の思いに迫る。(全2本・全編)

(2023年9月実施のインタビューを再編集して掲載します)

7月の広島復帰後は、13試合に出場し5得点を挙げた。

「おかえり、と思ってもらえること自体が、すごくうれしいことでした」

ーまずは、2023年夏の移籍に関するお話からお伺いしていきます。加藤選手にとってユース以来の広島復帰となりました。チームに合流し、吉田練習場やエディオンスタジアム広島でファン・サポーターのみなさんにお会いされたときの心境はいかがでしたか。

「久しぶりに吉田に足を運んだときは、すごく懐かしい気持ちと、『またここに戻ってくることができた』といううれしい気持ちでした。また広島でできるんだという喜びと、絶対にここで活躍したいという意気込みを感じながらプレーしていました」

ー7月21日に広島への完全移籍が発表され、その直後に行われたサンフレッチェのファン感謝デーにも参加されています。イベントブースに加藤選手が登場した際、たくさんのファン・サポーターが集まっていたのが印象的でした。

「めちゃくちゃうれしかったですね。みなさんが『おかえり』という言葉をかけてくださったのですが、『おかえり』と思ってもらえていること自体が、僕にとってはすごくうれしいことでした」

ー移籍を決断するにあたり、難しい部分もあったかと思います。改めて、広島加入を決断した最大の理由をお伺いできますか。

「一番は、『サンフレッチェ広島に戻りたい』という気持ちでした。このチームに戻って活躍したい、その気持ちが決め手になったと思います。もちろん、セレッソ大阪でプレーした2年間は、選手としてもすごく成長させてもらったと思っているので、感謝の思いもありました。セレッソ大阪で活躍したいという気持ちもあり本当に迷いましたが、僕のなかでは吉田で過ごした高校3年間が人生のなかで一番苦しかったですし、その苦しさのなかで頑張ってきたという、たくさんの思い出がありました。そんな思い出がある場所で、そして広島というチームで返り咲きたいという気持ちで、最後は広島に戻ることを決めました」

ーユース時代はトップ昇格が叶わず、卒業後は大学進学されました。そして、大学を卒業するタイミングでも、トップ昇格は叶わなかったという経緯があります。そのときの心境は?

「本当に悔しかったです。正直、『トップ昇格ができるのではないか』と自分自身で思っていた時期もありました。いま思い返してみれば、そのときに『そんなに甘くはないんだぞ』という現実を突きつけられたのだと思います。トップ昇格をつかめない、また夢が叶わなかった……ということを繰り返すうちに、『もう違うチームでやるしかない。そして、いつか広島を見返したい』という覚悟が決まったような気がします。そこからは『広島を見返したい』という気持ちでずっとプレーしてきたので、ある意味では、その反骨心に成長させてもらったという部分もあると思います」

ー加藤選手ご自身も言われたように、例えば他のクラブでプレーを続け、対戦相手として広島を圧倒するという道筋もあったと思います。しかしその道を選ばず、広島でプレーすることにこだわってきた、その原動力は何だったのでしょうか。

「先ほども話した通り、高校3年間はとにかく苦しい思いをしたという記憶があるのですが、その分サンフレッチェというチームは自分のなかですごく愛着のあるチームでもありました。ただ正直なところ、もうサンフレッチェからオファーが来るとは思っていなかったので、セレッソ大阪に所属していたときは、とにかくこのチームで広島を見返したいという気持ちが強かったですね」

ー加藤選手自身、サンフレッチェからオファーが来るとは思っていなかったということですか?

「はい。全然思っていませんでした。思っていないどころか、もう、そういう期待すらしていなかった部分もありました。その分オファーをもらったときには本当に驚きましたし、最初に話をもらったときは、正直、頭が真っ白になるくらいの衝撃でした」

ー双子のお兄さんである加藤威吹樹選手(2023シーズンまで南葛SC)も広島ユースの出身です。今回の移籍について、何かお話はされましたか?

「これまでも兄にはいろいろな相談をしてきましたが、兄はとにかくサンフレッチェが大好きなので、僕にもよく『いつかはサンフレッチェでプレーしてほしい』と言っていました。今回広島に復帰することになったことを話すと、とても喜んでくれていましたね」

ーサンフレッチェで双子の選手というと、森﨑和幸CRM、浩司アンバサダー兄弟や、佐藤寿人さん(双子の兄が元千葉などの勇人さん)がいらっしゃいます。サッカーをする双子ならではの『あるある』などはあるのでしょうか?

「うーん、そうですね……。僕の場合は、兄が試合中にファールされたりすると、他の選手がファールされるよりも気になってしまう、という感じでしょうか(笑)。身内だからということもあると思いますが、近い存在だからこそ、余計に気になってしまうのかもしれませんね。兄が誰かと喧嘩をしていて、兄のほうが悪かったとしても、つい味方になってしまったりすることもあります(笑)。そのくらい仲の良い兄弟なので、兄に広島入りを喜んでもらえたことは、僕自身もすごくうれしかったです」