薮田自身が変わり始めたのは、その直後でした。練習、そしてゲームが終わった後というのは本来、投手はノースローで調整するものですが、薮田は100球以上も投げ込みを行うなど、練習に対する姿勢が一気に変わりました。それまでのマイペース調整を考えると、本当によく投げ込むようになったと思いましたが、さすがに私も「投げ過ぎで肩を壊されては困る」と心配になるくらいの変わり様でした。ですが、あの時期に投げ込みを続けた事で肩が強化されていったと思いますし、同時に精神面も鍛えられたのではないかと思います。

 また薮田はテイクバックが小さく、独特の投球フォームが特徴の投手です。それだけに課題である制球難を克服する上で、急激なフォーム改良は難しいと私は判断し、ポイントを絞って指導しました。薮田も話していたかもしれませんが、彼は状態が悪くなると右腕が下がり、横振りで投げてしまう悪い癖があります。それを解消するために、『要所でカーブを投げて自分の調子を見極めろ』とアドバイスしました。私も現役時代にカーブを投げていましたが、縦振りで腕を振らなければカーブの制球力は落ちてしまいます。それを意識することで、少しずつ修正能力も向上していきました。

 2017年に一軍で先発の軸となり、15勝をマークするなんて私も全く予想できませんでした(苦笑)。ですが、一軍当落線上の選手というのは、いかにワンチャンスを逃さずつかんでいくかが大事になります。そういう意味では、薮田はそのチャンスを見事にモノにし、自分の力でワンランク上へとステップアップしました。ルーキーの頃から指導してきた投手だけに、活躍する姿を見せてもらえてうれしかったですね。