昨年オフの手術を経て、育成再契約としてスタートした2025年シーズン。前川誠太は7月に悲願の支配下登録をつかみ取った。「先輩たちにたくさん助けてもらった」と感謝の言葉を口にする前川が、『背番号93』を背負うまでの軌跡を辿る。(全2回/第2回)

入団時の背番号は『121』。福井の名門・敦賀気比高から育成ドラフト2位での入団だった

辛い時を支えてくれた先輩たちに、とにかく結果で恩返しをしたい

─前川選手は2024年オフに一度戦力外となり、育成再契約という形で今シーズンをスタートしました。支配下登録までに、転機となった出来事などがあれば教えてください。

 「トレーニングの面では、(西川)龍馬さん(現・オリックス)と同じジムに行くようになったことが大きかったと思います。龍馬さんが移籍した後は野間(峻祥)さんが面倒を見てくださって、自分が足の手術をした時には、『駅から歩くのは不便だろうから』とレンタカーを用意してくださったり、本当にお世話になっています。野間さんは質問をすれば何でも教えてくれますし、打撃に関しても、野間さんに相談してから自分のなかで考え方が変わって、しっくりくるようになりました。たくさん助けていただいた分、とにかく結果で返すしかないと思っています」

─西川選手と野間選手の存在は、前川選手にとって大きかったのですね。

 「はい。支配下登録をされたときも、すぐに連絡しました。龍馬さんには『だから言ったろ』と言っていただけて」

─それは、「支配下になると思っていたぞ」ということですか?

 「きっとそうだと思います(笑)。野間さんには、シンプルに『おめでとう』と言っていただきました」

─先輩方のサポートもあって支配下登録を勝ち取ったわけですね。では、一軍初出場の試合についてもお伺いします。8月5日のDeNA戦(横浜)が一軍デビュー戦となりました。

 「とにかく緊張しました。足元がフワフワするような感覚で……あんな感じになったのは、自分のなかでも初めてでした。打席に向かうときも足が震えるような感じだったのですが、試合を重ねるごとにそういうこともなくなってきました。今ももちろん毎試合緊張はするのですが、早い段階で安打が出たので、自分のなかで少し安心できた部分はありました」

─8月12日には、本拠地・マツダ スタジアムでお立ち台にも立ちました。カープファンの前でのインタビューはいかがでしたか。

 「マツダ スタジアムでプレーするのは目標の一つでしたし、チャンスで結果を出せたということもすごくうれしかったです」

─現在カープでは、育成指名から支配下登録になった選手が前川選手の他、大盛穂選手、二俣翔一選手、辻大雅投手など複数います。育成出身同士ならではのつながりや関係性はありますか。

 「大盛さんは、良いところも悪いところもちゃんと言ってくださる先輩です。ヤクルト戦で自分が牽制でアウトになってしまった時も、試合中にすぐアドバイスをしてくださいました。いつも頼りにしていますし、すごく勉強になります。二俣さんは育成時代からプライベートでもお世話になっていますし、辻とは一緒に一軍に上がってから話をする機会も増えてきました。僕は自分から話しかけるのが苦手なタイプなので、できればもっと辻の方からきてもらえるとうれしいです(笑)」

─前川選手が思う、育成選手だからこその強みは何でしょうか。

 「やっぱりメンタルです。支配下の選手たちとは違う立場で入団してきて、『這い上がらなければ終わる』という気持ちでやってきました。そういう面では、技術面や体力面に加えて、メンタルも鍛えられたと思います。育成選手としてプレーしていた3年弱は、『まだプロ野球選手じゃない』という気持ちでやってきました」

─大盛選手、二俣選手、辻選手にもお話を伺いましたが、同じような思いを話していました。

 「やっぱり、みんな同じような気持ちでここまでやってきたのだと思います。育成のままでは一軍の試合には出ることができませんし、一軍で活躍してこそプロ野球選手だと思うので」

■前川誠太(まえかわ・せいた)
2003年4月4日生・22歳・プロ4年目
敦賀気比高−広島(2021年育成ドラフト2位)
背番号:127(2022〜2025)ー93(2025〜)