◆大事な部分での厳しさも持ち合わせていた阿南監督

 シーズンの戦績を見れば分かりますが、この年は最後まで巨人とのデッドヒートを繰り広げた年でした。8月終盤の時点で一時は5.5ゲーム差までつけられたこともありましたが、チームは一丸となって優勝に突き進んでいました。巨人戦に関しては観客の数が多かったですし、自然と気持ちが燃えていました。

 ただ当時の巨人は江川卓さん、西本聖さん、槙原寛己さんなど素晴らしい投手陣でしたし、打撃陣は原辰徳さん、クロマティ、篠塚利夫さんら好打者揃いで簡単に勝てる相手ではありませんでした。しかしカープも北別府学を中心に投手王国と呼ばれる強力投手陣でしたので、巨人戦はいつもロースコアだった印象があります。

 結果的に巨人に勝率で上回ることで、リーグ優勝を達成したのですが、今振り返るとこの年に優勝できた要因は、やはりカープの選手たちがよく野球を知っていたということに尽きると思います。選手がそれぞれに課された役割を理解しており、それをしっかりと実践できていました。

 私で言えば、走者が二塁にいたらなんとしてでも三塁に進め、後ろにつなげるといったようなことです。1点をもぎとるためには、どのような打撃、攻撃をしたら良いか詳細な指示がなくても、個人個人が実行できていたんですね。ただ、私はシーズン終盤からスタメンではなくなっているんです。その理由はケガなどではありません。

 ある試合で浩二さんがショートゴロを打った際に、走者だった私がセカンドへのスライディングをしなかった場面があり、そのワンプレーがきっかけで次の試合からいわゆる懲罰的な意味で、スタメンの座を剥奪されてしまったのです。阿南監督は古葉監督に比べれば大人しい印象で、普段は優しい方だったのですが、大事な部分での厳しさは持ち合わせ、それでチームが引き締まっていたところはありました。