今季のカープは開幕からブルペン陣の再編を余儀なくされるなど、シーズン通して投手起用に苦しんだ感は否めない。主力投手の戦線離脱や、若手投手の台頭が交錯した2020年。計算外の出来事が頻発した今シーズンの投手事情を、カープOBの大野豊氏が総括する。

塹江敦哉投手を筆頭に、若い投手の台頭が見られたのも今シーズンの特徴だ。

◆苦しい戦いを強いられた前半戦

 今季のカープは投手のやりくりで相当苦労させられた印象があります。先発陣は頭数自体は揃っていたのですが、K.ジョンソンの不振、大瀬良大地の故障等で主力が次々に離脱していきました。それだけにシーズンが開幕しても数カ月は不安定な戦いを強いられていました。

 終盤戦になりチームが白星をつかめるようになったのも、先発陣が安定してきたから。具体的に言うと初回に失点するケースが減少したことで、文字通り“試合をつくれる”ようになってきたのです。

 強いチームには往々にして強力なリリーフ陣が控えていますが、リリーフを効果的に活用していくためには先発陣がシーズン通してある程度イニングを消化してくれることが前提です。前半戦は大瀬良と森下暢仁以外に計算できる先発投手がおらず、佐々岡真司監督もなかなか思い描いていた戦いをできず、歯痒い思いをしていたことでしょう。

 リリーフ陣に目を向けると後半戦の守護神・フランスア、セットアッパー・塹江敦哉、ケムナ誠という布陣が開幕直後から機能していれば良かったのですが、そもそもリリーフ陣の重要な場面に実績のない若手が2人も名を連ねているというのが、チームとしての不安定さを物語っています。

 当然若い投手を起用していくのもチームとして重要ですが、やはり3連覇の際に主力として戦っていた中堅どころの投手たちがもう少し戦力として活躍してほしいシーズンでした。

◆来季以降の糧にしなければいけないシーズン

 そんな状況の中で登板数を伸ばしていった若手投手陣がどう捉えて、何を感じていたのか気になるところです。もちろん彼らにとっては素晴らしい経験をしたわけですが、今季に関して言えばあくまでも“与えられた”場所や役割であって“奪い取った”ものではないはずです。

 当然一軍での経験を経て、自分の課題は嫌というほど痛感したはずです。先ほどいった中堅どころの投手たちも目の色を変えて来季は調整してくるはずですし、ぜひチーム内での激しい競争を勝ち抜いた上で、重要なポジションを“奪い取った”上で任される存在であってほしいと願います。

 そしてこれは先発陣、リリーフ陣に共通する課題なのですが、現在のカープ投手陣においてマウンドに上がってからの入りが良い投手が非常に少ないというのが挙げられます。簡単に四球を出したり、慌てて攻めて甘いコースに入ったり、こうした点が今季のカープで見受けられたのもやはり経験の少ない若手投手が数多く起用されたというのも無関係ではありません。

 やはり未知数な投手を起用するとどう転ぶか分からないため、チームとしても計算しづらい部分があります。「ここは抑えるだろう」ではなく、「ここを抑えてくれよ」という気持ちで見るのは心労もだいぶ違いますからね。

 また今季はフランスア以外の外国人投手がほとんど機能しなかったというのも大きかったと思います。若手主体のメンバーで臨まざるを得なかったと言うのが実状でしたが、来季以降のことを見据えれば、外国人投手の枠の分、若手投手たちが経験を積めたとポジティブに捉えても良いでしょう。

 来季も同じように若手投手主体となると厳しい戦いを強いられますが、今季ほど故障者や実力者たちの不振に悩まされるシーズンというのもなかなか珍しいと思います。そういう意味では、若手投手たちが経験を積むことができたシーズンだと前向きに捉え、来季以降の糧にしなければいけないシーズンだったと言えるでしょう。