佐々岡カープ元年、主力選手が故障などで苦しむ姿が目立つ中で、多くの若手選手が躍動した。ここでは「初」をキーワードに2020年シーズンの佐々岡カープで生まれた記録を振り返っていく。

 今回はプロ2年目の長距離砲・正隨優弥が初安打・初本塁打を放った9月18日のヤクルト戦(神宮)を振り返る。

9月18日のヤクルト戦でプロ2年目・正隨優弥選手が代打で登場しプロ初本塁打を記録。期待の長距離砲が一軍で結果を残した。

◆やっぱり本塁打を狙っていきたい。そこが自分のアピールポイント。

 アマ球界の名門である大阪桐蔭高、亜細亜大を経て、地元球団であるカープに入団した正隨優弥。即戦力として期待されたが、プロ1年目の昨年は一軍出場はなく、二軍で105試合に出場。6本塁打を放ったものの、打率.208と確実性に課題を残すシーズンとなった。

 巻き返しを期した2年目の今季は、春季キャンプ・第一クールから柵越えの打球を連発。右方向への一発をマークするなど、確かな成長の跡を見せつけた。惜しくも開幕一軍とはならなかったが、二軍でコンスタントに試合出場を続け、二軍首脳陣からの評価も日に日に高まっていった。

「昨季に比べたら、だいぶ確実性が増していると思います。じつは今年、ちょっと体調を崩して10日間ぐらい離脱したことがあったんです。練習に参加できなかったんですけど、そこで自分の打撃についてこれからどうしていったら良いかとか、今までの自分のフォームを撮ったビデオを見直してみたんです。自分の場合、他人の真似をすると徹底的に崩れるタイプなので、大学時代も含めて自分が良い打球を放っていたときの打撃フォームを見ていました」

 アクシデントをきっかけに生まれた”自分と向き合う時間”。その時間を有効的に使い、前に進み続けた。そんな正隨にチャンスが回ってきたのは9月6日。若手が積極的に起用されるなか、ついに正隨も召集され、初の一軍昇格を果たした。9月8日のヤクルト戦(マツダスタジアム)で迎えたプロ初打席は、惜しくも併殺打に倒れたが、2年目にして、ようやくプロ野球選手としてのスタートを切った。

 その後も一軍に帯同して迎えた9月18日のヤクルト戦。この日は正隨にとって忘れられない1日となった。

 投手陣が崩れ、7点ビハインドで迎えた7回表、代打で登場し先頭打者として打席に立った。マウンドには2番手の左腕・中澤雅人。初球のストレートを見逃したあと、3球変化球が続き、カウントは1ボール2ストライク。追い込まれてからの5球目。中澤が投じた低めのストレートを振り切ると、バックスクリーン右へ飛び込む特大アーチに。プロ4打席目でようやく出た待望のプロ初安打が、プロ初ホームランとなった。

「自分自身、足があるわけじゃないし、単打で出てもすぐに次の塁に進めません。二塁打以上を求められていると思うし、やっぱり本塁打を狙っていきたいです。そこが自分の一番のアピールポイントだという気持ちは常に持っています」

 今シーズン、一軍で8打席を経験し、放った安打はこの日のホームランのみ。しかし、一軍の舞台で放った大アーチは、確かな手応えをもたらしたはずだ。かつての主砲である新井貴浩も広島出身。同じドラフト6位の“右の大砲”として若くから期待され、着実に成長のステップを駆け上がってきた。ファンから愛された新井のような、“空を撃ち抜く大アーチ”を放つべく、今季の貴重な経験を糧に、背番号49は鍛錬を続けていく。