そして、負けじと存在感を高めているのがプロ11年目の堂林翔太である。

 「先のことは考えられません。競争もあって、一日一日が気を抜けない日々です。これが、やりがいにもなっていて充実感もあり、こういう感覚は11年目で初めてかもしれません」

 その充実ぶりは攻守に反映されている。まずは一塁守備だろう。イレギュラーバウンドにも集中して食らいつく、グラブさばきの安定感は抜群だ。

 「新井(貴浩)さんを見てきて、一塁守備の重要性を感じてきました。とにかく前に落とせばアウトひとつは取れます。それと、ファーストは野手の送球をカバーすることができます。自分はスローイングが良くなかったので、相手の気持ちが分かるといいますか、(一塁守備の安定感によって)周囲が助かるというところがあると思います」

 ショート、サード、外野、入団からさまざまなポジションを経験してきたが、無駄ではなかった。あらゆる気持ちを理解して、ファーストでしっかり受け止める。それが定位置奪取であり、1年間一軍でプレーするための道なのである。

 さらに打撃面でも好調をキープしている。これまでさまざまな打撃フォームにトライしてきたが、「今、しっくりきている部分があるので、良かろうが悪かろうが貫いていかないといけない」と方向性は定まっている。トップの位置をしっかりと準備し、ギリギリまで我慢する。そして球が来たところで、一気に上から叩く。これが強いライナー性の打球はもちろん、しぶとく野手の間を抜くグラウンダーの打球にもつながっている。

 8年目の髙橋、11年目の堂林、共にルーキー時代から期待値の高かった大器である。それだけに、本人らは危機感を持ってシーズンに挑もうとしている。二人には、試行錯誤の経験値もあれば、揺らがぬ方向性もある。

 3月に入り、開幕一軍争いは佳境を迎えた。しかし、彼らが目指すのはそこだけではない。自分の役割を把握し、つかみ、全うする。そのための第一歩なのである。ただ、その第一歩に向けての争いの厳しさに、V奪回を誓うチームの充実ぶりを感じずにいられない。

取材・文/坂上俊次(RCCアナウンサー)
1975年12月21日生。テレビ・ラジオでカープ戦を実況。 著書『優勝請負人』で第5回広島本大賞受賞。2015年にはカープのベテランスカウト・苑田聡彦の仕事術をテーマとした『惚れる力』を執筆した。