毎年さまざまなドラマが生まれ、そして新たなプロ野球選手が誕生するプロ野球ドラフト会議。今年は10月11日に開催される。長いドラフトの歴史の中で、カープスカウト陣はこれまで独特の眼力で多くの原石を発掘してきた。
本企画では、かつてカープのスカウトとして長年活躍してきた故・備前喜夫氏が、数々のカープ選手たちの獲得秘話を語った広島アスリートマガジン創刊当時の連載『コイが生まれた日』を再編集して掲載する。
ここでは、2000年ドラフト7位でカープに入団した岡上和典の入団秘話をお送りする（2005年掲載分を再編集）。俊足と堅守を武器に入団した岡上は、当時東出輝裕（現カープ二軍コーチ）、梵英心（現オリックスコーチ）らと内野ポジション争いを演じた。高い身体能力を誇りながら、故障に泣き2007年に現役引退となった。
ドラフト7位入団ながらも、毎年期待され続けていた岡上が指名された裏話を、備前氏の証言とともに振り返る。
◆打撃は時間がかかるが、足と守りはトップクラス
大学や社会人を経て入団する選手でも、その多くは我々プロ野球のスカウトに高校時代からリストアップされているものです。しかし我々カープスカウト陣が岡上和典という選手を初めて知ったのは、彼が東海大の３年生となっていた1999年の秋の事でした。
岡上は九州産業大付属九州高校では1番打者だったそうですが、最高成績は3年夏の福岡県大会4回戦進出で甲子園には出場していません。九州地区を長く担当する村上スカウト（当時スカウト部長）からも、彼に関する話を聞いたことは一切なく、高校時代にはプロのスカウトから注目されるような存在ではなかったようです。
大学3年生となった1999年秋の首都大学リーグで、岡上は入学後初めてベンチ入りしました。しかし当時はレギュラーではなく代走や守備要員などでの出場で、彼のプレーが見られる機会は決して多くはありませんでした。守る位置も内野手と外野手の両方を兼務していたように思います。
しかしその少ない出場機会の中で、彼の俊足と強肩が東海大の担当である苑田スカウトの目に止まりました。苑田から報告を受けた私は、東海大の試合では特に彼に注目する事にしました。そして彼は翌年最後のシーズンとなる2000年秋のリーグ戦でようやくレギュラーに定着し、12試合で打率2割9分の成績を残しました。この時の彼のポジションはライトだったと思います。
バッティングについては首都大学リーグの中では決して目立った存在ではなく、岡上よりもよく打つ選手はたくさんいたように思います。しかし足と肩に限ってみれば、ドラフト指名候補の大学生全体でもトップクラスでした。
「打つ方では多少時間がかかるだろう。しかしショートもしくはセカンドとしてなら、しっかり守って走ってくれればレギュラーポジションを獲得できるのではないか」という事で、11月17日のドラフト会議当日には下位ながら指名する事になりました。
この2000年は、同じ大学生では廣瀬純（法政大）を逆指名により2位で獲得する事が決まっており、岡上は最終となる7位で指名しました。岡上と廣瀬以外の5選手は全て高校生で、1位が春の選抜大会で甲子園出場を果たした横松寿一投手（戸畑高・2004年引退）、3位が玉山健太投手（山梨学院大付属高）、4位が甲斐雅人内野手（高鍋高）、5位が田村彰啓外野手（秋田商高）、6位が石橋尚登内野手（現尚至、波佐見高）でした。
岡上本人とは指名あいさつで初めて直接話をしたのですが、正直な所特別な印象はあまり残っていません。身体も目立って大きいわけではありませんし、どちらかと言えば大人しく物静かなイメージだったように思います。しかしグラウンドに出れば高い身体能力を発揮するといったタイプでした。内野・外野のどちらでも高いレベルを見せる守備と、スピードとセンスの両方に優れた走塁をより生かすため、岡上は入団と同時にスイッチヒッターに挑戦する事になりました。
高い能力を持ちながら故障もあってレギュラーを奪えない岡上ですが、私は彼の脚力と肩の強さなら、十分にショートのポジションが獲れると思っています。岡上が入団当時ショートだった東出や、今シーズン開幕スタメンながら同じく故障で離脱した尾形佳紀、移籍入団１年目の山崎浩司などライバルは確かに多いですが、故障を完治させて再びポジション争いに参戦してもらいたいですね。
